昆布とかつお節を組み合わせた合わせだしや、昆布と干し椎茸の精進だしなど、だしの素材を組み合わせて使うことが多いのは、先人たちがこの効果を経験的に見いだし、活用してきたからだろう。
グルタミン酸は昆布のほかにも、トマトやブロッコリー、アスパラガスなどの野菜や、チーズ、味噌、納豆といった発酵食品にも多く含まれている。イノシン酸は肉や魚全般に、グアニル酸はキノコ類全般に豊富だ。したがって、グルタミン酸の多い食材と、肉や魚、キノコ類を組み合わせれば、だしがなくてもうま味の利いた料理ができるのだ。
夏の味噌汁にはミニトマトとエノキの組み合わせがおすすめ。かつお節や煮干しでだしをとるのに比べ、魚介の風味がない分、野菜のおいしさが引き立つ味噌汁になる。
トマトは種の周りのゼリー状の部分にうま味成分が多いので、火が通ってやわらかくなったらおたまや菜箸で軽くつぶし、ゼリー部分を溶かす。普通のトマトでもよいが、ミニトマトは味が濃く、煮崩れもしにくいため加熱向きだ。
キノコは、夏はエノキがさっぱりとしておいしいが、秋や冬には椎茸もおすすめだ。黒胡椒(こしょう)を振ると、野菜の青くささがマスキングされて爽やかな味わいになる。好みで粉チーズをかけてうま味を足すと、コクのある洋風味噌スープに仕上がる。
グルタミン酸が豊富な食材としては、ミニトマトの他にも、春は菜の花、夏はアスパラ、秋~冬は白菜、変わり種では納豆を入れるのもよい。組み合わせる食材にはキノコ類や鶏肉のほか、サバの水煮缶を缶汁ごと使い、臭み消しにおろしショウガ少々を入れてもおいしい。うま味がしっかりと出るように汁に対して具をたっぷり入れると、副菜としても食べ応えのある一品になるだろう。
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うま味きかせる大豆の味噌
味噌は、米や麦などの穀物で麹(こうじ)を作り、さらに塩と大豆を加えて発酵させた調味料である。発酵により、米や麦に豊富なデンプンが分解されて糖になり、大豆に豊富なタンパク質が分解されてアミノ酸ができる。このアミノ酸にはグルタミン酸も多く含まれているため、味噌もうま味の濃い食材の一つである。
米麹や麦麹の割合が高い甘味噌や甘口味噌は甘味が強く、大豆の割合が高い辛口味噌や、大豆と塩だけで作る豆味噌はうま味が強い。今回のようにうま味をきかせたいときには辛口味噌や豆味噌がおすすめだ。
(科学する料理研究家 平松 サリー)
[NIKKEIプラス1 2021年8月14日付]