上と下とに挟まれる中間管理職は、「修羅場」は避けて通れない。その時に備えるために、本書『修羅場のケーススタディ』を開いてほしい。
例えばこんな事例が挙がっている。赤字が続く自部門。今年はラッキーな受注があり黒字化したが、現状のままでは厳しいことは明らかだ。ところが事業の長期計画を立てるにあたり、現実を知らない担当役員から「強気のV字回復の目標を立てろ!」とお達しが……。あなたなら、どうするだろうか。
本書は副題に「令和を生き抜く中間管理職のための30問」とあるように、このようなミドルリーダーが決断や処理を迫られる際どいケースを取り上げ、その乗り越え方を指南する。30の修羅場事例が「人間関係」「チーム」「キャリア」「トラブル」の4つの分類で解説されており、全方位的に修羅場の「疑似体験」ができる格好だ。
著者の木村尚敬氏は、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)マネージングディレクター。数多くの企業の経営改革に携わる。
■正攻法で打開できないときは
冒頭のケースに戻ると、役員の指示には従わず、まずはロジカルに正論で戦うことを著者は勧めている。具体的にはラッキーな受注がなかった場合の数字を示す。短期的に黒字化できてもその後、業績が落ち込めば意味がない。事業の抜本的改革が必要であることを役員に分かってもらうのである。
著者は、こうした正攻法的なスキルを表に成果が出やすい「ブライトサイド・スキル」と位置づける。このとき、ミドルリーダーが持っておくべき視点は「組織の長期的・継続的な成長につながるか」ということだ。基準がしっかりしていれば、自分の信念を貫きリーダシップを発揮できると著者は説く。
だが、正攻法だけで解決しないのも世の常。役員が納得しない場合は組織でうまく立ち回る裏技「ダークサイド・スキル」の出番だ。彼が目標数字にこだわる理由をそれとなく探ってみる。「引退間近だから、自分のいる間だけは黒字としたい」という本音が見えるかもしれない。そんな情報が得られれば、あとはそのまま他の役員に伝えればよい。