胃の不調も原因様々 思わぬ病気の可能性、放置は禁物
夏は暑さもあって胃に不調を感じる人が増えてくる。ただの夏バテと放置すれば慢性化しかねない。思わぬ病気が隠れている可能性もある。不調のタイプと原因を知り、対策を講じたい。
夏に胃の不調を訴える人は多い。東北大学の福土審教授(心療内科)は「暑さや室内外の温度差などのストレスで自律神経のバランスが乱れやすい。胃の動きや胃酸分泌などは自律神経によって調節されている」と説明する。他にも夏に目立つ食中毒を含む感染性胃腸炎が不調のきっかけになることがあるという。
最近は新型コロナウイルス感染拡大に伴う生活の変化が不調につながる例もあるようだ。兵庫医科大学の三輪洋人教授(消化管内科)による調査ではコロナ下で胃腸の症状が悪化した人が増えていた。
胃の不調を引き起こす病気は様々ある。例えば不快な症状が3カ月以上続くのに、内視鏡検査で異常がみつからない場合は「機能性ディスペプシア」かもしれない。
比較的最近になって診断名として認められるようになった原因不明の不調だ。胃のぜん動運動が弱まって胃もたれが起こったり、早期満腹感が出たりする。胃酸分泌過多や胃粘膜の知覚過敏で胃痛もある。福土教授は「気分の落ち込み、やる気の低下を伴うこともある」と指摘する。
治療では症状に合わせ、胃のぜん動運動を活発にする薬や胃酸分泌を抑える薬、胃腸の働きをよくする漢方薬の「六君子湯(りっくんしとう)」を使う。それでも改善しない場合には他の運動機能改善薬や抗不安薬、抗うつ薬などを用いる。
三輪教授は「薬物治療とともに重要なのが生活習慣の改善だ」と強調する。規則正しい生活や十分な睡眠、適度な運動、禁煙で自律神経のバランスを整える。弱った胃の機能を助けるため、食事は腹八分目にして消化の良いものを選ぶ。胃酸分泌を促す脂肪分の多い食事や胃への刺激となるカフェイン、アルコールは控えるようにしたい。
東京女子医科大学東洋医学研究所の木村容子所長は「冷たいものや水分を多く口にするのは胃の働きを弱める。冷たい飲み物は最初の1杯にとどめ、あとは常温にしておきたい。クーラーが欠かせない夏こそ、睡眠中におなかを冷やさないように、みぞおちまで覆う薄手の腹巻きをするとよい」と助言する。
一方、内視鏡検査などで胃粘膜に異常が見つかった場合は慢性胃炎や胃潰瘍の可能性がある。国立国際医療研究センター国府台病院(千葉県市川市)の上村直実名誉院長は「慢性胃炎や胃潰瘍の原因の多くはピロリ菌感染。放置すれば胃がんリスクが高まる。除菌治療をしたい」と語る。
三輪教授も「感染期間が長いほど胃がんのリスクが高まる。症状がなくても予防としてピロリ菌検査を受ける意義はある。なるべく若いうちに検査するといい」と促す。
胃潰瘍は鎮痛薬(非ステロイド性抗炎症薬)が原因で起こる場合もある。胃が持つ粘膜の防御機能を弱める作用があるためだ。鎮痛薬をやめられない場合は胃酸の分泌を抑える薬を併用する。
胸焼けは胃酸が逆流して食道の粘膜に炎症を起こす逆流性食道炎の症状。食道に原因があるケースも考えられる。ストレスで胃酸分泌が増えたり、肥満で腹圧が高くなったりした結果の可能性がある。生活習慣の改善や胃酸を抑える薬などで治療する。
不調を感じても市販薬で済ます人が少なくないが、胃がん、すい炎、心筋梗塞、胆のう炎、腎盂(じんう)炎など重い病気が隠れていることがある。上村名誉院長は「症状が長引く、体重が減る、いつもと違う激しい痛みなどあれば、すぐ受診してほしい」と語る。
(ライター 武田 京子)
[NIKKEI プラス1 2021年7月31日付]
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