ヒット傾向をデータで分析、14年上半期エンタ業界
日経エンタテインメント!
2014年上半期で、一番高視聴率だったテレビドラマはどれか。人気映画はどの作品か――。この半年間にどんなエンタテインメントがヒットし、どんな現象が起こったかについて、セールスや視聴率のデータから読み解いてみよう。
2014年上半期のテレビ分野。連続ドラマはNHKの『ごちそうさん』と『花子とアン』が平均視聴率1位と2位を独占し、「連続テレビ小説」が圧勝した。
若いヒロインの成長を描く同枠作品は3作連続の大台20%超え。数年前は15%を割る作品もあったが、人気枠として完全復活した。2014年4月から始まった『花子とアン』は5月9日に自己最高の24.8%を記録。『ごちそうさん』に迫る勢いを見せている。
民放トップは『相棒』。単発時代を含めると今年で15年目に突入した。安定した人気はテレビ朝日の屋台骨だ。
上位から浮かぶキーワードは「杏」と「池井戸原作」だ。女優の杏は『ごちそうさん』のほか、『花咲舞が黙ってない』にも主演。視聴率女優の仲間入りを果たした。
池井戸潤は2013年の『半沢直樹』以降"時の人"に。春ドラマに限って言えば、トップ10に『花咲~』と『ルーズヴェルト・ゲーム』の2作が入っている状況だ。
全体を通しては、2013年の『あまちゃん』『半沢直樹』のように、社会現象を感じさせる作品はなし。ソチ五輪があった1月期に続き、6月はサッカーW杯のため、ビッグヒットは下半期に持ち越しか。
2013年の映画業界は邦画の実写が不振で、『真夏の方程式』の33.1億円がナンバーワンヒットだった。それに対し、2014年は上半期だけで『永遠の0』『テルマエ・ロマエ2』が『真夏の方程式』の成績を上回り、邦画の実写に復調傾向が見られる。
また2013年はアニメ映画の活況ぶりが目立ち、年間興行収入トップ20の中にアニメ映画が9本入った。2014年上半期もこの流れは続き、トップ5のうち4本がアニメだ。
ランキングには感動作から明るく笑える作品、3D(立体)映画までバラエティーに富んだ映画が並んでいる。
ミュージカルナンバーの数々に心が躍り、一緒に口ずさみたくなる『アナと雪の女王』、零戦搭乗員の家族愛に涙する『永遠の0』、阿部寛のローマ人に大笑いする『テルマエ・ロマエ2』、3D技術とCGでリアルに再現された宇宙空間を体感できる『ゼロ・グラビティ』。泣いたり笑ったりハラハラしたり。いろいろな感情が発散でき、スッキリした気分になれる「感情発散型」の映画が人気となった。
こうした映画界の好調ぶりからは、消費税アップの影響は感じられない。このまま下半期も右肩上がりを維持しそうだ。
音楽分野では、シングルトップ10はジャニーズ8作とAKB48の2作のアイドル勢のみに。その中でも嵐が1位と2位を独占。2010年代に発売された15作のうち、1種類の発売だった『To be free』を除きすべて50万枚を突破し、安定した人気を誇る。関ジャニ∞は、湘南乃風・若旦那の作詞でヤンキー色の強い『キング オブ 男!』で自己ベスト売り上げを更新した。また、ジャニーズWESTの初作品が発売3週間にて9位に入り、今後は嵐、関ジャニ∞に続くジャニーズ内3番手の混戦が予想される。
アルバムでは、『アナと雪の女王』のサウンドトラックがダントツの売り上げ。2014年7月16日に発売された映画のパッケージ化により、話題が途切れず勢いを維持している。このままいけば、ミリオンの可能性もある。ちなみに、主題歌を歌うMay J.の『Heartful Song Covers』もセールスを重ねて、6月には20万枚を突破した。
なお、日本レコード協会にて毎回ミリオン認定を受けているAKB48の作品は、個別対応の握手券や撮影会付きの劇場盤が集計対象外のため、ここではシングル、アルバムともに20万枚台にとどまった。
4カ月半の間で2013年の年間トップ10の境界線だった30万枚を超えたのは1作のみで、特にベスト盤が3位と5位のみと大物クラスがそろわないのも低調の要因。幅広い年代を巻き込むヒット曲を増やすことが、アルバム市場復活の手がかりか。
本の分野で1位となった『人生はニャンとかなる!』は、古今東西の偉人や成功者たちの格言を、愛くるしい猫の写真とともにつづる名言集。13位『人生はワンチャンス!』はこの犬バージョンだ。そのほか3位『まんがでわかる7つの習慣』、7位『面倒だから、しよう』、17位『嫌われる勇気』など、自己啓発書が支持された。
自己啓発やスキルアップはもともと人気のジャンルだが、2013年のベストセラー『伝え方が9割』『統計学が最強の学問である』が実践的なビジネス寄りだったのに比べ、前向きなメッセージや心構えを説くものが目立つ。5位『ビリギャル』も学力を伸ばす指導本ではあるが、内容は精神面の啓発要素が多い。先が読みにくい時代、物事をポジティブにとらえ、「何事も自分の心持ち次第で変えられる!」と訴えるものがウケているようだ。
文芸書では、2014年度の本屋大賞受賞作『村上海賊の娘』、村上春樹の『女のいない男たち』、西尾維新の「物語」シリーズ『終物語』がトップ10入り。書店員お墨付き本に、世界のムラカミ作品、アニメもヒットした人気シリーズと、"安心銘柄"が読まれた。
(ライター 木村尚恵、相良智弘、つのはず誠、平山ゆりの)
[日経エンタテインメント! 2014年7月号の記事を基に再構成]
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