ごみ処理技術の進歩で処分場の姿一変 再資源化も進む
鼻をかんだティッシュ、インクの切れたボールペン。役目を終えればごみ箱に捨てておしまいだ。しかしごみの一生はそこから始まる。「ごみ戦争」という言葉が都議会で使われて今年で50年。ごみの行方を調べた。
東京湾にある廃棄物埋め立て処分場を訪れた。東京23区内で収集され焼却などの処理を経たごみ、一日1155トンほどをここに埋め立てている。ごみの終着地だ。中間処理施設を運営する東京二十三区清掃一部事務組合によると、ごみは回収されてから約3~4日で焼却され、その1~2日後に埋め立てられるという。
記者がごみの処分場と聞いて思い浮かべていたのは、カラスが群がり乱雑に積み上げられたごみの山。しかし実際の最終処分場は想像とは全く違った。ごみの山は見当たらず、ダンプ車が決められた場所に次々と焼却灰を運ぶ。覚悟していた臭いもほぼない。ごみと土の層を交互に重ねていくことで臭いやごみの飛散を防いでいる。海を挟んで羽田空港や東京ディズニーリゾートを見ることができた。
ごみの埋め立ては綿密な計画に基づいて行われる。運ばれてきたごみの重さは必ず計測。ごみの飛散を防ぐため、季節ごとの風向きに合わせて埋め立て地内での埋め立て箇所も変える。ごみで汚れた雨水を浄化する工程もある。
全国には現在1775もの最終処分場がある。山間部に位置する処分場が大半を占め、東京23区のような海面の埋め立て地は全国38カ所と少ない。38カ所のうち、近畿では大阪湾にある4つの埋め立て処分場に、周辺2府4県168の市町村の廃棄物を埋め立てている。
埋め立て地は倉庫やゴルフ場、公園などの緑地として使われることが多い。東京の中央防波堤内側埋立地にある海の森公園は、東京五輪・パラリンピックの総合馬術クロスカントリーで利用された。
ごみは埋め立て地に運び込まれる前に別の施設で処理される。可燃ごみは焼却処理され灰に。不燃ごみや粗大ごみは小さく砕かれた後、鉄やアルミニウムなどの資源を回収する。可能な限り減量化し、処分場に埋め立てられる量を減らす。
生ごみをそのまま埋め立てていた「ごみ戦争」の1970年代とは打って変わり、現在は可燃ごみの全量焼却が主流だ。ごみの資源化も進み、絶対量も減少傾向にある。現在、東京都の埋め立て地で最終処分される廃棄物の量はピークの72年度の約10分の1にまで減少した。
発電や建築材に活用進む
実は現在のごみ処理技術は減量化のずっと先まで進化していた。いまはごみをどうやって最後まで利用するかという段階にきている。例えば発電。ごみの焼却熱を使う発電は発電効率がおよそ14%(全国平均)まで上昇した。生ごみを微生物が分解する際に発生するメタンガスによる発電もある。発電以外では、ごみを焼却して残った灰はセメントやスラグの材料にし、道路工事などに使われる。
70年代はきれいな生活環境を保つことがごみ処理の目標だった。今ではさらに循環型社会の形成が加わった。ごみ処理設備大手のタクマの担当者は「3R(リデュース・リユース・リサイクル)を徹底してもごみは発生する。それをどう利用していくかが技術発展の原点」と話す。
もっとも、どんなにごみを減量化しても埋め立て地は埋まっていく。環境省によると一般廃棄物の最終処分場の残余年数は全国平均で21・4年(19年度時点)。いまのペースでごみを出し続ければ、21年後にはごみの行き場がなくなるということだ。
ごみ処理技術の発展に頼ってばかりでは不十分だ。私たちにできることは? 埋め立て処分場を管理する都の環境局の担当者は「3Rのなかでもリデュース。そもそも排出されるごみを減らしていく努力が重要」と話す。
東京都の中間処理施設では、20年度に開始したレジ袋有料化により収集されたごみの中に含まれるレジ袋の割合は前年比35%減少した。生活から出るごみを減らせるかどうかは我々一人ひとりの行動にかかっている。
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究極のごみ分別でまちおこし
国内最多とされる45項目のごみ分別をするのは徳島県上勝町だ。2003年にごみゼロを目指す「ゼロ・ウェイスト」を国内で初めて宣言した。ごみ収集車は走らず、町民はごみを自らステーションへと持ち込み分別する。生ごみは堆肥化するなど、町民の協力によってごみのリサイクル率は80%を超える。
上勝町では過疎化・高齢化が進む。ごみゼロへの取り組みは、環境問題に関心の高い若者や企業から注目を集め、まちおこしにつながるとの期待もある。町の取り組みを発信する複合施設も20年にオープンした。「これからはリサイクルに加えて、ごみそのものを減らすことも必要。町内外へ重要性を発信していきたい」と町役場企画環境課の菅翠(みどり)さんは語る。
(黒沢亜美)
[NIKKEIプラス1 2021年7月24日付]
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