ストレスきっかけに適応障害 うつ病との違いは?
著名人が適応障害を理由に休業するというニュースを耳にしたことがあるかもしれない。どのような病気なのか。うつ病とは何が違うのか。ストレスが原因だと聞くが、どう対処すればよいのか。注意点をまとめた。
環境の変化になじめず、気分が落ち込んだり、不安になったりする。ストレスがかかる状況にうまく対応できず、心身のバランスを崩す。社会生活にも支障を来すようになる。これが適応障害と診断される典型的な状態だ。
抑うつや不安、イライラ、集中力の低下などの精神的な症状だけでなく、不眠や食欲低下、動悸(どうき)、腹痛といった体の不調も表れやすい。遅刻や欠勤、過度の飲酒など行動の変化を伴う場合もある。
適応障害は原因がはっきりしているのが特徴だ。転職や転勤、転校、結婚・離婚、育児、被災、対人関係のトラブルなどに伴うストレスがきっかけになる例が目立つ。
米精神医学会による診断基準(DSM-5)ではストレスのかかる状況が始まって3カ月以内に症状が表れ、そのストレスがなくなれば、6カ月以内に改善するとされる。岡田クリニック(大阪府枚方市)の岡田尊司院長は「ストレス状況が解消すれば、回復は比較的早い」と指摘する。
うつ病に関してはストレスだけでなく、性格や体質など別の要因も関係して発症するとされる。生活や職場の環境を改めたとしても、すぐにはよくならない。川村総合診療院(東京・港)の川村則行院長は「うつ病はセロトニンなどの脳の神経伝達物質の減少をはじめ脳の働きに関係するため、回復には時間がかかる」と説明する。
帝京大学医学部付属溝口病院(川崎市)精神科の張賢徳客員教授は「最近の自殺者急増の背景として新型コロナウイルス禍での適応障害やうつ病の増加が考えられる。症状が悪化する前に手を打つことが大切だ」と強調する。適応障害が悪化してうつ病になってしまうこともある。
気分の落ち込みが2週間以上続く場合、心療内科や精神科を受診するようにしたい。治療に当たってはまず休養を十分取るよう勧められる。川村院長は「しっかり睡眠を取ることが大事だ。不眠や抑うつ、強い不安といった症状がみられる場合は必要に応じて睡眠薬や抗うつ薬、抗不安薬を使うこともある」と語る。
同時にストレスのもととなっている環境の改善も試みる。仮に職場に問題があったとすれば、上司と話して仕事の進め方を変えたり、配置転換してもらったりする。難しいときは転職を検討することもありうる。
岡田院長は「医師と相談しながら話し合うといい」と助言する。環境を変えるためには家族をはじめ周囲の理解や協力も欠かせない。
責任感が強く、頑張りすぎる人はストレスがたまりやすい。完璧を求めすぎないように思考・行動を変えていく手もある。心理療法やカウンセリングが活用される。
ストレスへの対処法としては「家族でも、友人でも、趣味のつながりでもいい。いざというときに避難できるような、仕事以外の場を確保しておくと安心できる」と岡田院長。悩みやつらさをひとりで抱え込みすぎない。助けを求められる相手をつくる。こうした自分なりの備えを普段からしておきたい。
コロナ禍で直接人と会う機会が減った今、電話やメール、オンラインなどでの交流を意識して増やすのも重要だという。張客員教授は「ソーシャルディスタンス(社会的距離)が叫ばれているが、感染予防に必要なのはフィジカルディスタンス(物理的距離)。仲間との社会的距離は積極的に縮める努力をしてほしい」と訴える。
(ライター 佐田 節子)
[NIKKEI プラス1 2021年7月24日付]
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