日本国内におけるBtoC分野のEC(電子商取引)市場規模が右肩上がりに拡大し続けている。ECにおけるパッケージデザインの役割は、店頭での役割とは異なる。ECの市場拡大を受けて、食品のパッケージに情緒的デザインの大波が押し寄せるかもしれない。

EC市場規模の推移
EC市場規模の推移
※2020年7月22日発表の経済産業省ニュースリリースのデータを加工して掲載

 経済産業省が実施した「令和元年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(電子商取引に関する市場調査)」(2020年7月)によると、令和元年(2019年)では前年比7.65%増、市場規模は19.4兆円となった。特に物販系が10兆515億円、前年比8.09%増とけん引している。分野別に見ると、EC化率が高いのは「事務用品、文房具(41.75%)」「書籍、映像・音楽ソフト(34.18%)」「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等(32.75%)」。「食品、飲料、酒類」のEC化率は2.89%とまだ低いものの、市場規模においては1兆8233億円と、「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」とほぼ同程度の規模に達している。

 ECの市場拡大を受けて、各メーカーもEC向けのパッケージデザインに注力しているだろう。ECにおけるパッケージデザインの役割は、店頭での役割とは異なる。パッケージデザインには、店頭で見て初期購買に結び付ける「チラシ的役割」と、記憶に結び付きブランド資産として消費者の印象に残る「ブランド的役割」がある。パッケージ以外で情報伝達が可能なECにおいては、チラシ的役割を担う必要が少ない分、後者の役割に近い情緒的価値を中心にデザインすることが可能となる。

もともと情緒的デザインが多い調味料分野

 代表的な例としては、アスクルが12年から展開する「LOHACO」のデザインがある。「店頭で目立つのではなく、暮らしになじむデザイン」をコンセプトとしており、北欧風のおしゃれなデザインの商品などを展開している。こうしたEC向けのデザインはこれまで、日用雑貨を中心に取り入れられてきたが、前述したEC市場規模の拡大傾向に加え、新型コロナウイルス感染症のまん延で自宅での調理頻度が増え、食への関心が高まっているという背景を踏まえると、今後は食品カテゴリーにおいてもEC向けデザインの需要が増すものと考えられる。

調味料デザインの方向
調味料デザインの方向
※プラグが実施した2018年以降のパッケージデザインに関する調査の中から、次の単語が好意度理由に占める割合が多い順に抜粋して掲載。定番デザインは「定番」、高級路線デザインは「高級感」「高級な」、情緒的デザインは「おしゃれ」「かわいい」「かわいらしい」「優しい」「懐かしい」。ただし「情緒的デザイン」については、「定番・高級路線デザイン」でも上位のデザイン、機能系商品、キャラクター掲載商品を除く

 食品カテゴリーのパッケージデザインといえば、“シズル”が最も重要な要素の1つであり、いかにおいしそうなシズルを強調するかで印象が大きく左右される。どうしても料理の写真やイラストがデザインの中心となってしまうため、情緒的デザインにすることが難しい。ただ、食品系の中でもこのシズルがあまり使われていないカテゴリーがある。それは、だしや酢、塩、コショウ、油、ケチャップ、マヨネーズ、ドレッシングといった調味料カテゴリーだ。

 このカテゴリーは、商品そのものが「おいしいもの」ではなく、さまざまな食材を「おいしくするもの」であるため、料理そのものの写真を掲載したデザインは比較的少ない。恐らくは特定の料理写真を載せることで用途が限定される印象を与えたくないという理由からであろう。あるいは、デザインできる面積が限られていることから、料理の写真を使いにくいという理由もあるかもしれない。いずれにしても料理の写真を使って一目で購買意欲をそそるようなデザインをつくることが難しいことから、これらの調味料デザインは次のように大きく3方向に分かれている。

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