企業のミッション、ぶれない評価軸に落とし込む

「我々はここを目指していこう」「こうした価値観を大切にする」--価値観が多様な社員が共に働く時代を迎え、企業のミッション、バリューを明確にし、社員全員の「共通言語」として対話をしていくことの大切さが高まっている。

この点で参考になるのが、第3回「メルカリ『やさしい日本語』 多様な人材の力引き出す」で取り上げたメルカリだ。

同社は「新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイスを創る」をミッションに掲げ、国籍、性別、障がいの有無などに関係なく世界中の人が利用できるマーケットの創造を目指す。山田進太郎社長は、そのためには「多様性に富んだメンバーの様々な視点やアイデアを尊重し、受け入れていく環境づくりが不可欠だ」とダイバーシティ推進を経営戦略のなかで明確に意義づけ、折に触れて社員にメッセージを発している。

それだけではない。同社はミッションを実現するためのバリューとして、「Go Bold(大胆にやろう)」「All for One(全ては成功のために)」「Be a Pro(プロフェッショナルであれ)」という3つを設定。障がいのある人も外国人もすべての社員に、このバリューの発揮が求められる。採用や人事考課の評価項目に、これらバリューが組み込まれているという。

メルカリの村山和也さんは、スマートフォンのチャットアプリ「UDトーク」を使い、素早く入力しながら会話をする

管理職が社員と面談する際も、このバリュー軸に沿って対話がなされる。「Go Boldで、高い評価です」。第3回に登場した聴覚障がいのある社員、村山和也さんは、労務担当の上司である東江(あがりえ)夏奈さんから、評価面談でこう告げられた。

たとえ失敗しても、難易度の高いプロジェクトに挑戦して新たな可能性を探ったり、周囲にいい刺激を与えたりすれば、「Go Bold」であるとして評価される。

村山さんは、データ読み込み業務を担当するアノテーションチームのメンバー。前例もルールもない新しい取り組みを、他部署の人と調整しながら進めるのがうまい。調整力に加え、メール中心のコミュニケーションでは、村山さんに聴覚障がいがあることに気付かない社員もいるほど、文章の表現力も秀でている。そこで「Go Bold」というバリューで、東江さんは村山さんを高く評価しているという。

多様な人材を生かすためには、ぶれない評価軸を持つことが大切だ。全社員で共有するバリューは、性別、国籍、障がいの有無など目に見える属性の違いを超えて、社員を束ねる力ともなる。

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改めて、ポイントをまとめてみよう。経営トップは、わが社でなぜダイバーシティ推進が必要なのか、どんな価値観を共有するかを、社員に繰り返し発信する必要がある。そのメッセージを受け止めて組織にいかに浸透させるかは、現場管理職の「対話力」にかかっている。組織で多様性を価値に変える、そのカギとなるのが「対話」である。すべてのビジネスパーソンにとって、「異なる人」との「対話」が、自身の成長につながり、そしてまた組織の成長につながるのである。

野村 浩子(のむら ひろこ)
 働く女性向け月刊誌「日経WOMAN」編集長、日本経済新聞社編集委員、淑徳大学教授などを経て、2020年4月東京家政学院大学特別招聘教授、東京都公立大学法人監事。著書に「女性リーダーが生まれるとき」(光文社新書)など。

(おわり)