地形マニアの教え

その道のプロからヒントをもらい、町を歩くというトレーニングを繰り返す著者。方向音痴であるがゆえに「知らない場所に行くのが怖い」と思っていたが、そうした不安が一連のチャレンジを通じて和らいでいく。

東京の凸凹地形や、スリバチ状のくぼ地を愛好する「東京スリバチ学会」を設立し会長を務める地形マニアの皆川典久氏は、「迷うことも楽しい」と説く。迷いながら見知らぬ土地で、地形から昔の風景を想像したり、偶然出合ったものに歴史の痕跡を見出したりすることで、冒険気分が味わえる。それが本来の散歩の醍醐味だというのだ。

著者と皆川氏は四谷を散策しながら、地下排水溝や水路の名残、江戸時代につくられたダムの跡地、大ヒット映画『君の名は。』の舞台となった階段などを訪れ、土地の背景に思いをはせる。そうして地形を味わって歩き回るうちに、「ここはさっきも通った」「北はあっち」と、著者の方向感覚が徐々に磨かれていくから不思議だ。

方向音痴の克服よりも、町歩きの楽しさの方へ意識が向かっていった、と著者は心境の変化をつづっている。地図アプリを使って効率的に目的地に到着するだけでは、得られないものが確かにあるのだろう。方向音痴の背中を押すとともに、迷うことの豊かさを改めて教えてくれる一冊である。

今回の評者 = 安藤奈々
情報工場エディター。8万人超のビジネスパーソンに良質な「ひらめき」を提供する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」編集部のエディター。早大卒。

方向音痴って、なおるんですか?

著者 : 吉玉サキ
出版 : 交通新聞社
価格 : 1,540 円(税込み)

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