原因は加齢だけでない 眼瞼下垂、目のこすりすぎ注意
眠くないのに眠そうな目に見えてしまう。それはもしかすると、まぶたが十分に上がらなくなる「眼瞼(がんけん)下垂」かもしれない。加齢のほか、コンタクトレンズの長期使用といった刺激が原因になることもある。
眼瞼下垂は目を開けたときにまぶたが正常な位置より下がっている状態をいう。目の中央にある瞳孔の一部がまぶたで覆われ、視野が狭くなってしまう。
生まれつきまぶたを上げる筋肉や神経に異常があるケースもあるが、その多くは加齢などが原因となって後天的に発症する。まぶたの下垂は通常少しずつ進んでいくため、まだ軽い初期の段階では自覚する人が少ない。加齢に伴う老化現象と考え、放置されがちな症状でもある。
眼瞼下垂はどのようにして起こるのか。まぶたを持ち上げる筋肉(眼瞼挙筋)は薄い膜状の組織(眼瞼挙筋腱膜(けんまく))につながっており、さらにまぶたの縁にある板状の組織(瞼板(けんばん))にくっついている。
「眼瞼挙筋腱膜が加齢とともに劣化し、ゆるんでいくことで、眼瞼挙筋の力が瞼板にうまく伝わらなくなる」。日本医科大学武蔵小杉病院眼科の村上正洋講師(眼形成外科)はまぶたが上がりにくくなる仕組みをこう解説する。
加齢だけでなく、物理的な刺激もこうした組織の劣化を早めてしまうようだ。「コンタクトレンズ、特にハードタイプを長期使用している人の場合、腱膜などの組織が極端に薄くなっていることがよくある」と村上講師は指摘する。1日に約2万回はするというまばたきのたびにコンタクトでこすれ、劣化につながってしまう。
花粉症やアトピー性皮膚炎で強いかゆみを感じるときやアイメークを落とす際、まぶたを強くこするのも要注意。日ごろからまぶたへの刺激は避けるようにしたい。
眼瞼下垂になると、前方や上方が見えにくくなり、無意識に眉やあごを上げるようにもなる。眼瞼下垂治療を年間1000例ほど手掛ける高田眼科(浜松市)の高田尚忠院長は「額の筋肉を使って眉を上げる習慣が慢性的な目の疲れや頭痛、肩こりの原因になっていることも少なくない」と話す。額の筋肉にかかる負担が後頭部や肩の筋肉にまで波及するためだという。
「額に深いしわができたり、昔と比べて目が小さくなったりと、見た目の老け感が増すのも悩ましい」(高田院長)ところだ。まぶたのくぼみも老けて見える一因となる。眼瞼下垂が進むと、まぶたの脂肪が奥へ引きこまれ、くぼみが目立つようになる。場合によっては左右の目の大きさが違ってくるなどの変化もありうる。若い頃の写真と現在の顔を見比べてみると、眼瞼下垂を自覚するきっかけになりそうだ。
治療する場合、眼科や形成外科で外科手術を受ける。眼瞼挙筋腱膜をゆるんだ分だけ短くし、瞼板に固定する「眼瞼挙筋前転法」が一般的だ。目元はその人の印象を左右するだけに、見る機能の改善とともに、見た目も意識して治療に臨む人が多いようだ。
眼瞼下垂と似た症状としては加齢によってまぶたの皮膚がたるんでくる皮膚弛緩(しかん)症が挙げられる。村上講師は「皮膚がまつげの生え際を越えて垂れ下がると、眼瞼下垂と同じように視野が狭くなる。高齢になると併発する例がしばしばみられる」と話す。
加齢に伴って誰にでもある程度は眼瞼下垂の症状が出る可能性がある一方、脳梗塞などの深刻な疾患が原因になることもある。高田院長は「眼瞼挙筋をつかさどる動眼神経がまひすることで起こる。ある日突然まぶたが下がったときは要注意」と警告する。この場合、原因となる疾患の治療を急ぐ必要がある。
(ライター 松田 亜希子)
[NIKKEI プラス1 2021年7月10日付]
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