39歳記者の終活体験 わが子への遺言書、法務局に託す

新型コロナウイルスが多くの尊い命を奪い、健康には多少の自信があった記者(39)も人生の終焉(しゅうえん)をふと考えた。まだ早いとばかり思っていた終活の扉を開いてみた。

命に限りがあることは理解しながら、自分の死について真剣に考えることを避けてきた。元気な人も新型コロナで急に亡くなることがあると知り、腹をくくって終活に挑戦してみることにした。結婚して子どもを持った今、自分の死が家族に迷惑をかける可能性も不安になる。

専門家にアドバイスしてもらおうとネットで検索した。介護や葬儀など高齢者を対象とした助言が多いなか「30代からのプレ終活」と題したセミナーを手掛けていたファイナンシャルプランナーで、葬儀会社よりそう(東京・品川)の秋山芳生さん(44)に連絡した。

「まずエンディングノートを書きましょう」と言われ、都内の大型書店へ向かう。店内を探したところ「相続」の棚に分類されていた。写真を保存できたり、自分史が書けたりとさまざまな種類が20冊以上あるなか、書き込む分量が少ないものを選んだ。

いざ書き始めると生年月日などの基本情報や預貯金は着々と埋まったがページが進むにつれ、書く手が止まる。「友人の連絡先」は数人の顔が浮かぶが、最近はSNSのみのつながりで電話番号や住所はすぐに分からない。「認知症や寝たきりになったときの介護」では思うように体が動かない自分と疲れきった家族の顔を想像し「病院や施設でプロのヘルパーやケアサービスを使う」と記入。ところが、書いたそばから「費用は足りるか」「いざとなったら家族に甘えたくなるかも」など複雑な思いが湧き上がった。

「終末医療」に差し掛かると、いよいよ息苦しくなった。「余命数カ月となった際の過ごし方」「延命治療は必要か」の問いに「家族で話し合い、最善を決めて欲しい」と書くのが精いっぱいだった。

埋まらないノートを持って秋山さんの元へ。「感情移入する項目は書けなくて当然。一分一秒と減りゆく人生の時間や、家族との絆を思う機会になれば意義がある」と励まされた。

「お子さんがいる場合は遺言書も作ってみては」と秋山さん。法務局が昨年7月に始めた「自筆証書遺言書保管制度」では1通につき手数料3900円で遺言を預けられる。夫や子、実家の親を念頭にわずかな貯蓄の相続割合に頭を悩ませていると「家族との関係性を見つめ直し、相続のイロハを学ぶ場にもなる」と諭された。

数日後、自筆で遺言書を作り、住民票など必要書類をそろえて都内の法務局へ申請に向かった。「皆で仲良く、幸せに過ごしてね」。メッセージを添えた計3枚を国に託し、死後には家族の元へ遺言書が通知されるよう設定した。

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変わる埋葬の価値観