「私たちは永遠の中小企業」。ソニー創業者と仕事をした最後の世代ともいわれるソニーグループ常務の御供俊元氏はこう語る。この中小企業魂が新領域への開拓の原点だ。エレクトロニクス(エレキ)を祖業としながらも、今では音楽や映画などエンターテインメント(エンタメ)でも世界を駆けるソニー。決算の数字から見える表と、その裏にある強さに迫った。

ラジオやウォークマンなど、日本のエレキの歴史をつくってきたソニーだが、いまや売上高の約5割を映画や音楽、ゲーム事業が占める。ソニーの今の強さとは。左写真は、ソニーのラジオ人気をけん引した“スカイセンサー”シリーズの高性能機「ICF-5900」、右写真は初代“ウォークマン”「TPS-L2」
ラジオやウォークマンなど、日本のエレキの歴史をつくってきたソニーだが、いまや売上高の約5割を映画や音楽、ゲーム事業が占める。ソニーの今の強さとは。左写真は、ソニーのラジオ人気をけん引した“スカイセンサー”シリーズの高性能機「ICF-5900」、右写真は初代“ウォークマン”「TPS-L2」

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 「シナジーが生まれない事業は売却したほうがいい」。ソニーは長年、投資家などからこう言われてきた。だが、ソニーはその声に反し、多様な事業を育ててきた。「ハードとソフトは車の両輪」と創業者が語ったように、エレキなどのハードだけでなく、コンテンツ(ソフト)ビジネスを磨いてきた。

 音楽事業は1968年に米CBS社と合弁でCBS・ソニーレコードを設立したことに端を発し、映画事業は89年の米コロンビア・ピクチャーズの買収で本格展開を始めた。アニメは最近のトピックスのように思えるが、「80年代に子会社ソニー・ビデオソフトウェア・インターナショナルを設立し、86年には既にアニメ作品を公開している。実は、古株の事業だ」と、元ソニー社員で早稲田大学大学院経営管理研究科教授の長内厚氏は指摘する。「金融を除けば、ソニーグループの持つ事業は当たり外れや浮き沈みがあるものばかり。その前提で種まきをし、多様な収益源をつくり上げているのが強さの源泉」と長内氏は続ける。

 その成果は、今の数字を見ても明らかだ。

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 2021年4月に発表されたソニーグループの20年度(21年3月期)通期連結決算。全体の売上高は約8兆9994億円、営業利益は約9719億円で、純利益は1兆円を超えた。いずれも過去最高の数字だ。中身を見ると、コンテンツの強さが際立つ。

 売上高は、ゲーム、音楽(アニメ)、映画の3事業だけで5割近くを占める。営業利益なら6割を超える。一方、ソニーの家電製品が市場を席巻していた00年度は、売上高7兆3148億円のうち、エレキが約7割を占め、ゲーム、映画、音楽はそれぞれ1割を切る水準だった。そこから20年、コングロマリット化は成熟のときを迎えている。

 そもそも、「ソニー=エレキ」と定義付けているのは“外野”だけだ。ソニーグループ常務の御供俊元氏はこう話す。「創業者である盛田昭夫と井深大も、(ソフトでもハードでもなく、)体験を売るということを繰り返し語っている。吉田(編集部注:吉田憲一郎氏、ソニーグループ会長兼社長CEO)も分かりやすい言葉で『クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす』と言っている。何も変わっていない」。領域は関係ない。この柔軟さと新領域へのチャレンジこそ、ソニーの本質だ。

2021年5月の「2021年度経営方針説明会」でも、ソニーグループ会長兼社長CEOの吉田憲一郎氏は、「感動」を軸に経営をしていくことを繰り返し述べた
2021年5月の「2021年度経営方針説明会」でも、ソニーグループ会長兼社長CEOの吉田憲一郎氏は、「感動」を軸に経営をしていくことを繰り返し述べた

ハードとソフトの融合は次のステージへ 「6事業並列化」の意味

 ハードとソフトを両輪とする戦略は、ここにきて新たなステージに立った。象徴するのが、21年春のグループ再編だ。4月1日、ソニーは社名変更を伴う組織改革を実施した。まず、ソニーは商号を「ソニーグループ」に変更。1958年に創業当時の「東京通信工業」からソニーへ変えてから実に63年ぶりのことだ。

■ 2021年4月にソニーグループは新体制に移行
■ 2021年4月にソニーグループは新体制に移行
6つの主力事業がついに並列化

 名称だけでなく、組織も変わった。テレビなどのエレキ事業を分社化して通信部門などと統合させ、ソニーという名を継承。金融事業を手掛けるソニーフィナンシャルホールディングスの完全子会社化も果たした。これでグループの主力6事業、「ゲーム」「音楽」「映画」「エレキ」「半導体」「金融」が完全並列化し、「連携の体制が整った」(ソニーグループ会長兼社長CEOの吉田憲一郎氏)。ソニーはエレキを聖域としない、真の意味でのコングロマリットな企業へと変わったのだ。

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