大学入試は「くじ引き」で サンデル教授の主張の狙い『実力も運のうち 能力主義は正義か?』

ひところ言われた受験戦争という言葉がある。一定の世代の方には、あまり思い出したくない勉強漬けの日々の記憶があるのではないだろうか。日本や韓国に特有の文化的なものかと思いきや、アメリカでも似た状況が起きているらしい。エリートを目指す10代の若者が、メンタルに変調をきたすほど追い込まれているというのだ。

出自によらず、能力の高いものが成功を手にすることできる――こうした「能力主義(メリトクラシー)」が社会を毒していると警鐘を鳴らすのが本書『実力も運のうち 能力主義は正義か?』(鬼澤 忍訳)。TV番組「ハーバード白熱教室」で人気を博したハーバード大学の政治哲学教授、マイケル・サンデル氏の新著である。報酬や地位は能力に従って割り当てるべきだという、一見フェアなこの考え方の何が問題なのか。

「やればできる」がもたらした社会の分断

アメリカは格差社会だが平等な機会があり、勤勉で才能があれば誰でも出世できる、というのがアメリカンドリームの信念だ。オバマ大統領は在任中、「やればできる」と140回以上繰り返したという。

だが現実には、貧しい家庭に生まれたアメリカ人は大人になっても貧しいままであることが多く、名門大学に進学し高い報酬を得られる職につくのは裕福な家庭の子弟だ。社会の流動性は中国よりも低く、アメリカ社会はまるで新たな世襲貴族制の様相を呈している。

エリートたちは、生まれた環境という運の要素が成功に強く影響していることに無自覚で、自らの努力と能力で成功したと信じ込んでいる。さらには、経済的に困窮する人たちは大学の学位を得る努力や能力が不足しており自業自得だ、と無自覚に見下す。こうして社会に「勝者と敗者」、「賢い人と愚かな人」という分断が生じてしまった。トランプ大統領登場の背景には、見下された労働者の屈辱や怒りがあったとサンデル教授は分析する。

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