コロナ禍で原則テレワークとなるなか、同社のチャット文化はますます進化した。在宅勤務で孤立感を抱く社員がいるとして、スラックに雑談や趣味のサークルなどのチャンネルが立ち上がった。
会議発言の書き起こし、スラックで依頼
村山さんとの意思疎通でも、様々な工夫がみられる。一例が、村山さんが会議に参加する際のテイクノート(文字起こし)。ユニークなのは、スラックに「テイクノートボランティア」のチャンネルが設けられていることだ。ここには、手を挙げた社員30人ほどが登録している。
村山さんや会議主宰者は必要に応じて、このチャンネルにメッセージを入れて、文字起こしを依頼する。あるワークショップでは主宰者が、「muracchi(注:村山さんの愛称)さんが参加…(中略)…note takingしてくださる方を募集します」と呼びかけた。
会議やワークショップでの発言は、クラウド上の文書作成ツール「グーグル・ドキュメント」を使って、ボランティアが入力していく。全員で画面共有しながら、テキスト(文字情報)でのコミュニケーションも可能にする。
こうした「テイクノート」は、最初から順調に機能していた訳ではない。文字起こしが発言のスピードに追い付かなかったり、周囲のつぶやきなど、会議の場で村山さんが把握したい情報がもれてしまったり。「あそこで、なぜみんなが笑ったか分からなかった」。東江さんはあるとき、村山さんからそんなメッセージを受け取ってハッとした。
情報を時間差なく「同じもの」に 会議ルール設定
どうしたら、村山さんがキャッチする情報を他の会議参加者と同じものに近づけられるだろう。「時間差なく情報を共有したい」。試行錯誤の末に、東江さんは会議の進め方と文字起こしのルールを見直した。
まず、会議参加者には、ひとつの議事が進んでいるときに、関連したテーマを傍らで話さないように要請した。一方、テイクノートのボランティアたちには、雑談も書き起こすように依頼し、入力が間に合わない場合は、会議の進行を一時中断するようにした。
すると、会議の進行がシンプルになったばかりでなく、思わぬ効用があった。どの話者も、「私の話がどのくらい伝わっているだろうか」と周囲の理解度を意識して発言するようになった。参加メンバーは、従来より全体の流れを把握しやすくなり、自分の意見をまとめる余裕もできて、発言のハードルがぐんと下がったという。
「会議のスピードは落ちたが、明らかに質は高まった」と東江さん。コロナ禍でオンライン会議に移行してからは、発言を終える際は「以上です」と必ず言う、最後は手を振って散会といった工夫も加わった。
村山さん自身も、会議中に分からないことがあれば、すぐにスラックで質問を入れる。不明点は極力、その場でクリアにするようにしている。