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女性迎えた鉄道の現場 「いいよ、俺やるから」は禁句

多様なメンバーと働く 職場の対話術(4)

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NIKKEI STYLE

脱・同質性の時代。様々なバックグラウンドを持つ人と共に働くことが当たり前となった。女性、シニア、外国人、障がいのある人、性的少数者(LGBT)、子育てや介護を担う人………。多様なメンバーが持ち味を生かしながら気持ちよく働くには、それぞれが互いの持つ背景を知り、尊重し合うための「対話」が必要だ。コロナ禍で突然迎えたテレワーク環境下、先進企業では、どんなコミュニケーションの工夫があるのか。ジャーナリストの野村浩子氏が報告する。

<<(3)メルカリ「やさしい日本語」 多様な人材の力引き出す

男女雇用機会均等法の施行から35年。それでも、女子学生がもともと少ない理系の知識が求められる職場、あるいは、泊まり勤務がある職場で「メンバーは男性ばかり」というところもまだある。

第4回は、24時間体制で鉄道の電気系統の保守管理を担う現場に女性社員を迎えた東急電鉄のケースを紹介しよう。

初めて女性をメンバーとして受け入れ、人材として育てていくうえで、管理職は対話でどんな工夫をしているのか。テレワークの普及といった観点からは番外編となる「現場」を預かるチームからの報告だ。

5メートルの梯子も登る 電気部初の女性社員

「女なんていらないよ」「すぐ辞めるんじゃないか」

東急電鉄の電気部に女性初の技術員として配属された樋口真由さん(29)は、2010年の入社当初、先輩からこんな言葉をかけられた。

仕事を始めてほどなく、その言葉の意味が分かる。電気部は、駅や線路の電気系統の保守管理を担う。安全靴を履いてひたすら線路の上を歩き、駅や変電所を点検して回る日々。日中の暑い最中も、終電後の深夜も。電柱に登ったり、梯子(はしご)をかけて電線を点検したり……。

加えて入社した当時は、朝8時~午後4時55分の日中勤務のあとに休憩を挟んで深夜0時から翌朝5時まで働き、その3時間後の朝8時から再び日勤が始まるシフト勤務が、月8回ほどあった。同じ部署の先輩や同僚らと全く同じ24時間体制のシフト勤務に入って現場仕事を覚えていった。

樋口さんは大分の工業高校で学んだ。高校の先生から「東京の東急電鉄という会社で募集がある。女性初の歴史を作ってはどうか」といわれ、面白そうだと思い単身上京。弱音は一切吐かなかった。

「あいつ1人で頑張っているよね」。他部署に配属された同期の男性が、こう言ってくれたのが心の支えになった。電気部には17年以降、後進となる新卒の女性社員が1人また1人と配属され、樋口さんの所属する戸越メンテナンスセンターは、19年に2人目の女性社員を迎えた。

入社して10年、今や中堅社員となった。それでも今も、樋口さんには「ひとりでは難しい仕事」がある。線路と平行する形で真上に走る電車線の点検作業がそれだ。2人1組で線路を歩いていき、確認が必要と思われる箇所では梯子を電車線にかけて点検しなければならない。

梯子の長さは約5メートル。電車線にかけて、ユラユラ揺れるなか登っていく。何しろ梯子が重い。1人で持ち上げて立てかけることができないのだ。ともに作業をする同僚に声をかけ、「息を合わせて」(樋口さん)電車線にかける。

「手伝ってもらえませんか」。助けを求める言葉を発することも必要だ。そのとき「よっしゃ」と助けてくれる同僚がいてこそ仕事を完遂できる。そこでは男性も女性も関係ない。相互の信頼関係がないと、「声がけ」しながらの現場仕事は成り立たないのだ。

女性に対して「優しすぎてはいけない」

そんな樋口さんの上司は、19年7月、区域ごとの電気保守管理をするセンターのひとつ、戸越メンテナンスセンター長に就任した佐藤英貴さん(48)。

樋口さんの入社が内定した当時、佐藤さんは本社勤務だった。社内で「電気部に新卒女性を採用する」と耳にした際、佐藤さんは「えっーーーーと思った」と苦笑いする。他の同僚と同じく「女性に務まるのか」と思ったのだ。ところが、上司として樋口さんの仕事ぶりを見るや、考えは改まる。

今では男性の部下と変わらず、樋口さんと接している。女性社員に対して「いいよ、俺がやるから」というのは禁句だと佐藤さんはいう。大変な力仕事だから無理だろう、負荷が大きすぎるからかわいそうだと、女性に対して「優しすぎてはいけない」ときっぱり。それでは女性部下が育たないからだ。

「優しすぎてはいけない」のには、もうひとつ意味がある。電気の保守点検は、常に危険と隣り合わせの仕事だ。その厳しさに、男性も女性もない。時には、厳しく「叱る」こともある。

「考えが甘いんじゃないか」。あるとき、作業手順の確認が不十分だった樋口さんに対して、佐藤さんは厳しい言葉を投げかけた。

樋口さんがいま責任者を務める駅の配電所には、6600ボルトもの電流が流れている。操作を誤れば、感電したり、機器で指を切ったり、といった事故もありうる。ともに働く後輩にけがをさせる危険もある。「安全に対してどう考えているのか」。既に中堅として活躍する樋口さんに対して、いま一度、気持ちを引き締めるようにと厳しく問いかけた。

果たして、佐藤さんのように女性の部下を躊躇(ちゅうちょ)なく「叱る」ことができる男性の上司は、どのくらいいるだろう。

「女性は泣いてしまうから面倒くさい」「どうせ辞めるんだろう。そこまでして育てようとは思わない」。均等法の施行後、女性たちが社会進出をするなかで、よく聞かれた言葉だ。

「危険」を伴う現場のみならず、仕事では、「それでは大損を生じる」「取引先に迷惑がかかる」など経験のなさが一因となるトラブルがつきもの。真剣に部下を育成しようと思うなら、「叱る」ことは、ごく自然な行為でもある。

「叱る」真意が伝わるには、上司と部下の信頼関係が欠かせない。そのため佐藤さんは「何でも受けとめる管理職」でありたいと、日ごろから部下全員に対して「何かあれば、いつでも相談してほしい。何でも言ってほしい」と折に触れて声がけをしている。

そうした日ごろからの信頼関係の醸成もあり、このときも、樋口さんは謙虚に受けとめた。同時に「最終確認は確実に。1人では間違いが起きる。その前提で第2確認者とともに点検すること」。佐藤さんが日々繰り返す言葉を改めてかみしめたという。

もう1つ、2人の信頼関係を映すような話を耳にした。

樋口さんは電気設備の保守という仕事柄、いったん駅、線路の保守点検に出ると、6時間弱オフィスに戻ることができない。夜間の現場で使うのは男女共用トイレ。そうした就労環境で悩ましいのが、生理だ。男女共用トイレでは、生理用品を交換しても捨てるところがない。生理中は体調も崩れやすいが、夜勤の交代は職場に迷惑をかけるので言い出しにくい。作業に支障がないよう、薬でなんとか調整している。実はこんなことも、上司の佐藤さんには何度か相談したという。

樋口さんにとっては、所属する電気部ではまだ女性社員が妊娠出産した前例がないことも、不安の種だ。「もしも妊娠したら、どのタイミングで職場に言えばいいのだろう」、樋口さんは時折ふと思う。妊娠時は危険を伴う作業はできないし、子育て中の深夜勤務も制限が出てきそうだ。

 この例のように、働く女性が増えるなか、男性上司にとっては、思いもかけないことで女性の部下が悩んだり不安を感じたりしていることもあるだろう。

女性社員が増えて就業年数が延びるなか、妊娠出産、不妊治療、更年期症状など、女性の身体に関する基礎知識を身につけるための社員研修を行う企業も出てきている。何かの際、きちんと受け止め対応できるように管理職が知識を蓄えること、そして何でも相談できるような環境づくりが必要だろう。

上司から自己開示、部下が何でも言える雰囲気に

部下が何でも言える雰囲気をつくるためには、上司が自らについてオープンにプライベートなことも含めて話す、いわゆる「自己開示」が必要だといわれている。

佐藤さんもまた、日々の朝礼で自身の体験談を積極的に語っているという。

朝礼では業務の引き継ぎといった事務連絡のほか、仕事を離れた自身の近況について3分ほど語る。よく登場する話題が、オフの日に取り組んでいる少年野球での指導を巡る話。

子どもを指導するとき、どんな言葉をかけているのか、中学を卒業して高校の寮に入ることになった教え子が、わざわざ挨拶に来てくれてどんなにうれしかったか……。指導者としての苦労や喜びを話すことが多い。

樋口さんはクスリと笑いながら「なんだかうれしそうだな」と思う。佐藤さんの人となりに触れて、上司と部下の距離が縮まる時間でもある。「現場」に出れば、危険回避のために神経を張り詰めっぱなし。24時間交代勤務のため、みなで一緒に飲みに行く機会も取れない。

わずか3分でも、業務と直接関係しない日常から思ったことや考えたことをリーダーが話す朝礼の時間は、心を澄まして相手の話を聴く、相手の人となりを見る貴重な時間なのだ。

 現場に初めて女性メンバーを迎える際の3つのポイント
1)「優しすぎる」のは禁物。女性部下の成長を妨げる
2)体調の問題は業務にかかわる。生理や妊娠出産など女性の身体に関する基礎知識を身に付けておく
3)「何でも相談できる上司」に。上司自らプライベートの話も含めてオープンに語り、「自己開示」する

樋口さんが20歳を迎えて、初めて職場の先輩らと飲みにいったときのこと。「女なんていらない、と思っていたけど、男も女も関係ないな」と先輩がぽつり。その数年後には「こんなに頑張る奴だと思わなかったよ」という言葉をかけてもらった。

「体力的なハンディがあるから」「泊まりがあるから」「前任には女性がいないから」……。かつては女性を迎え入れることに必ずしも賛成ではなかった職場の空気も、その先輩の言葉が映すように変化した。

「この人となら一緒に仕事ができる」。互いにそう思えるような信頼関係を職場のメンバーと築いていくことができるかどうか、この点において男も女も関係ない。

そのためにも、上司は女性部下を育成するうえで、必要とあればためらうことなく厳しい言葉をかけることも大事ではないか。成長を望む部下であるなら、その真意はきっと通じるはずだ。

注)樋口さんは21年7月1日付で電気部プロジェクト推進課に異動となりました。現在は工事の設計・施設管理業務を担当しています。記事中の部署名・役職等は取材時点のものです。

野村 浩子(のむら・ひろこ)
働く女性向け月刊誌「日経WOMAN」編集長、日本経済新聞社編集委員、淑徳大学教授などを経て、2020年4月東京家政学院大学特別招聘教授、東京都公立大学法人監事。著書に「女性リーダーが生まれるとき」(光文社新書)など。

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