1981年に誕生し、2021年に40周年を迎える赤城乳業(埼玉県深谷市)のアイス「ガリガリ君」。今や国民的アイスと言っても過言ではないが、品薄騒動や大赤字に値上げと、その歩みは決して平たんなものではなかった。失敗をも糧にガリガリ君を成長させてきた立役者、萩原史雄さんを小口氏が直撃する。

赤城乳業 開発マーケティング本部 副本部長 マーケティング部 部長 萩原史雄さん。1995年入社。営業を経て、2004年営業統括部(マーケティング担当)に。06年にはキャラクター「ガリガリ君」のマネジメント業務を行うガリガリ君プロダクションを設立
赤城乳業 開発マーケティング本部 副本部長 マーケティング部 部長 萩原史雄さん。1995年入社。営業を経て、2004年営業統括部(マーケティング担当)に。06年にはキャラクター「ガリガリ君」のマネジメント業務を行うガリガリ君プロダクションを設立

新工場を建設するも品薄騒動に

⼩⼝覺(以下、⼩⼝) 赤城乳業は2010年に、埼玉県本庄市に工場を新設します。

萩原史雄さん(以下、萩原) 1本60円(当時)のアイスを売るために約200億円の投資をしました。10年はサッカーワールドカップ南アフリカ大会の年で、JFA(日本サッカー協会)やアディダスとコラボして、パッケージのガリガリ君にサッカー日本代表(SAMURAI BLUE)のユニホームを着せた商品を販売しました。街頭で紙製のうちわを配布して、「うちわとガリガリ君で日本の暑い夏を乗り切ろう」というキャンペーンも展開しました。この年は記録的な猛暑で、うちわとガリガリ君だけでは、とても乗り切れないほどでしたけど(笑)。

2010年2月竣工の「本庄千本さくら『5S』工場」。5Sは整理・整頓・清掃・清潔・躾(しつけ)の頭文字Sをとったもの。工場見学も人気だが、21年4月現在は新型コロナ感染症拡大の影響により一時休止している
2010年2月竣工の「本庄千本さくら『5S』工場」。5Sは整理・整頓・清掃・清潔・躾(しつけ)の頭文字Sをとったもの。工場見学も人気だが、21年4月現在は新型コロナ感染症拡大の影響により一時休止している

小口 この年に年間3億本を突破します。

萩原 10年は、アイス市場全体が前年比で1%しか伸びなかったのに、ガリガリ君だけは37%も伸びたんです。しかし売れすぎて品薄騒動が起こり、メディアから批判されました。情報番組の中で謝罪会見をしたほどです。

小口 謝罪するようなことだった?

萩原 この頃から“品薄商法”という言葉がネット上で広がり始めて、ガリガリ君が品薄になったのは、わざとじゃないのかと。わざとではなかったのですが、説明しても理解してもらえなかった。新工場をフル稼働させて生産していたのですが。

小口 翌11年は30周年の年でした。

萩原 この年は、企画をたくさん打ちました。ガリガリ君には多くのファンがいるので、アイスという商品を超えたニュースを生み出すプラットフォームとして、大規模なイベントや映画コンテンツにも参加しました。例えば「ラーメンの後にガリガリ君を食べよう」という、新しい食習慣を提案するイベントを東京ラーメンショーで実施しました。するとラーメンを食べた人の5人に1人、2万5000人以上がガリガリ君を食べてくれた。結果、11年には販売本数3億9000万本を達成しました。

売られたけんかを買って生まれたコーンポタージュ味

萩原 12年は販売予測しやすいフレーバーばかり出していたところ、あるコンビニのバイヤーに「最近のガリガリ君は攻めてないよね」とけんかを売られてしまいました。そこで出したのが「ガリガリ君リッチ コーンポタージュ」です。売れすぎて、発売後3日で休売になりました。

売れすぎてすぐ休売になるほど人気を集めた「ガリガリ君リッチ コーンポタージュ」
売れすぎてすぐ休売になるほど人気を集めた「ガリガリ君リッチ コーンポタージュ」

小口 実際のところ、まったくお店で見つけられませんでした。

萩原 ネットやワイドショーはもちろん、東海道新幹線の車内ニュースでも休売情報が流れたほどで、広告費に換算すると5億5000万円以上の効果がありました。

小口 「ガリガリ君リッチ コーンポタージュ」は、フレーバーとしては定番のソーダ味、02年にヒットした梨味に次ぐ3位の売り上げに。お菓子・食品業界で巻き起こった“変な味ブーム”の先駆けになりました。

【意識低いポイント】「最近のガリガリ君は攻めてないよね」
こうあおられたことで、伝説のコーンポタージュ味が誕生した。攻めた商品開発より安定供給を重視しようなどと守りに入らなかったことが成功につながった。アイスの定番商品となったガリガリ君シリーズだが、今後も攻めの姿勢を見せていただきたい。

萩原 この頃になると、ガリガリ君の新フレーバーがスクープされるようにもなりました。ある女性週刊誌には「あずき大福」味をすっぱ抜かれました。

小口 仕込みではなく本当のスクープだったんですか?

萩原 ガチです。2年間ぐらいその週刊誌は出入り禁止にしましたから。12~13年はTwitterなどのSNSでもガリガリ君に注目が集まり、ネットニュース、週刊誌、テレビへとお金をかけなくても宣伝ができた時期です。13年は現在のところピークとなる4億7000万本を販売しました。

小口 SNSの効果は、この辺りがピークだったのでしょうか?

萩原 それ以降は、大手企業がSNSを活用するようになったので、情報の鮮度を保ちにくくなりました。ガリガリ君が話題になっても一瞬で終わってしまうんです。

小口 13年には江崎グリコとのコラボ「ガリガリ君リッチ クレアおばさんのシチュー味」を発売し、これも売れた。そして14年、ある意味で伝説の「ガリガリ君リッチ ナポリタン味」を発売します。

萩原 これが大失敗で、約3億円の損失を出してしまいました。

コーンポタージュ味路線で成功を狙ったが、約3億円の赤字を出した「ガリガリ君リッチ ナポリタン味」
コーンポタージュ味路線で成功を狙ったが、約3億円の赤字を出した「ガリガリ君リッチ ナポリタン味」

小口 売れると思って出したんですか?

萩原 コーンポタージュ味のとき、社内で誰もおいしいとは思わなかったけど、売れちゃったんです。なので、ナポリタン味もまずいと思いながら発売しました。しかも、コーンポタージュ味のように売れるだろうと作りすぎてしまい、大量に売れ残ってしまった。話題にはなったので、広告効果は少なからずあったのですが……。

小口 3匹目のドジョウはいなかった。

萩原 15年は、しつこさをテーマに、夏をプチサマー、ファーストサマー、セカンドサマーと3つに分けてプロモーションしましたが、肝心の残暑が来なかった。

小口 アイスが気候に大きく左右されるのは仕方がないですね。

値上げで社長以下が頭を下げるCMで広告賞総なめ

小口 16年にガリガリ君は、60円から70円(税別)へと25年ぶりに値上げ。社員一同が頭を下げる企業CMがかなり話題になりました。

萩原 発表のタイミングから逆算して、テレビ番組で「ガリガリ君リッチ ナポリタン味が3億円の大赤字」を告白。その約1カ月後に日本経済新聞がスクープとして値上げを記事にしました。

広告賞を総なめにした「ガリガリ君 値上げ CM」
広告賞を総なめにした「ガリガリ君 値上げ CM」

小口 失敗も糧にされている。さらに値上げのおわびCMを流すタイミングで新社長への交代を発表し、値上げに至った経緯を説明する。その結果、ネット上には値上げに対する不満よりも、むしろ「よくこれまで頑張った」と好意的な声があふれた。完璧なプランでした。

萩原 これで広告賞を13個もいただきました。秋には復活ののろしとして、メロンパン味などパン系の味で攻めた結果、売り上げも前年より伸びました。現在は販売本数年間4億本を維持しています。

小口 今年(21年)は発売から40周年。どんなイベントを考えていますか?

萩原 具体的には話せませんが、25周年に近いような形で新しい商品を出したいと考えています。ガリガリ君は外で遊ぶときに食べられるアイスであることが一番の強みですが、新型コロナ感染症拡大の影響により外で食べられるシーンが減っているのでなかなか難しいですね。とはいえ、チャレンジをして、突き抜けるようなくだらないことやっていきたいなと思っています。

 スタッフには、ガリガリ君は小学生なので全員小学生の気持ちで企画会議に出るようにと言っています。これからも小学生が喜びそうなアホなことをやっていきたいですね(笑)。

(写真提供/赤城乳業、写真/湯浅 英夫)

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