ひらめきブックレビュー

弱点を強みにすれば世界一変 広告マン、草の根の挑戦 『マイノリティデザイン』

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「苦手は克服しなければならない」「『できない』より『できる』ほうが優れている」――。これらの思い込みを見事に覆してくれるのが、本書『マイノリティデザイン』だ。

■できないことを「克服」するより、社会を変える

著者でコピーライターの澤田智洋氏の定義によれば、「マイノリティデザイン」とは、マイノリティー(少数派)を起点に世界をより良い場所にする、こと。本書では、著者が取り組んでいる事例を紹介しつつ、コンセプトやアイデアの出し方などをまとめている。

義足をファッションアイテムととらえたファッションショー。高齢を逆手にとったおじいちゃんアイドルグループの結成。いずれも魅力的で思わず参加したくなるほど。だからこそ、本の副題にある「『弱さ』を生かせる社会」が、きれい事ではないと思えるのだ。

著者は、広告業界の花形であるCMプランナーとして活躍していた。しかし32歳の時、誕生した息子の目が見えないことが判明した。これをきっかけに200人を超える障害者に会うなかで、自分ではできないことや苦手なことを無理に克服するのではなく、社会を変えればよいのだということに気づく。さらに、マイノリティーの価値を広め、課題を解決するために、得意とする広告の力を役立てることを思いつく。例えば、視覚が不自由な競技者で争う「ブラインドサッカー世界選手権」のコピーは関係者から好評だった。

何のために働くのか、そもそも広告とは何なのか。広告マンとして悩み、突きつめた結果、著者がたどりついたのは「金もうけ」でも「流行をつくる」ことでもない、「世界をより良い場所にする」ことだった。この考え方をもとに広告の新たな可能性に気づき、大切な人のために働く「やりがい」も知った。

■「PPPPP」で持続可能な生態系をつくる

広告ではこれまでスピードやスケールが重視されてきた。しかし、「マイノリティデザイン」では持続可能なアイデアに注目し、「生態系」づくりを重視する。そのためのフレームワークが「PPPPP(ピンチ、フィロソフィー、プラットフォーム、ピクチャー、プロトタイプ)」だ。

具体例を見てみよう。著者は、自らスポーツを苦手とする「スポーツ弱者」というピンチを発見。「スポーツ弱者を世界からなくす」というフィロソフィーを構想し、誰でも楽しめる「ゆるスポーツ」なるプラットフォームを構築。スポーツを汎用性のある「道具」としてとらえるピクチャーを描いた。プロトタイプとして、ハンドソープをつけたヌルヌルの手でプレーをするハンドボール「ハンドソープボール」をつくる。

「ゆるスポーツ」はいまや、企業や自治体とコラボして次々と新たな競技が誕生し、技術への注目度の向上や地域PRの「道具」などとして使われている。

誰かの「弱さ」に見えることは、視点を変えれば社会の「課題」であり、それを解決すれば世界はより良くなる。紹介される事例を追いかけるうちに、いかに狭い考え方にとらわれているかに気づかされた。マイノリティーという言葉の従来の意味に縛られない、新しい発想を求める方に一読の価値ある一冊だ。

今回の評者 = 前田真織
2020年から情報工場エディター。2008年以降、編集プロダクションにて書籍・雑誌・ウェブ媒体の文字コンテンツの企画・取材・執筆・編集に携わる。島根県浜田市出身。

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