昨年からの巣ごもり需要で、ストリーミングサービスの人気が高まっている。ストリーミングとは、インターネット上の作品を個人のデバイスでいつでも見られるサービスのことだ。かくいう私もネットフリックスの愛用者である。
メディア産業の大きなトレンド、ストリーミングビジネスの最前線を追っているのが本書『ネットフリックス vs. ディズニー』。「世界最大のメディア企業」と称されるネットフリックスと、旧勢力代表のウォルト・ディズニーの趨勢(すうせい)を中心に、日本・中国などを含む世界のメディア事情、戦略をレポートしている。
著者の大原通郎氏はデジタルメディアウオッチャー。NHK、TBSに勤務していた経験があり、海外のメディア動向に詳しい。
■多様性に賭けるネットフリックス
はじめに、ネットフリックスの好調ぶりが描かれる。2020年6月末時点で、全世界で1億9295万人の有料登録者を記録。同年4月に発表された時価総額では、ディズニーをも上回った。
一方のディズニーは、ディズニーチャンネルという主力のケーブル専門チャンネルが加入者数を減らしている状況だ。いわゆるコードカッティング(ケーブルテレビの契約を止め、ネット動画サービス視聴に移行すること)である。ただ2019年11月から始めたストリーミング配信のディズニープラスが好調で、有料登録者5750万人(20年6月末)と勢いづいている。
両社が火花を散らしていることは間違いないが、コンテンツ面では競合しないと著者は指摘する。ネットフリックスは欧州各国だけでなく、インドやアフリカなど世界各地に拠点を持ち、各国のスタッフで、各国の文化に合わせたオリジナルコンテンツを制作。「多様性」と「ローカライズ」が真骨頂だ。創業者のリード・ヘイスティングス氏が、発展途上国でボランティア活動をしたり、アフリカで教鞭を執ったりして、世界の多様性に触れていたことが影響しているのだろう。
ディズニーはといえば、所有のディズニーアニメ、『スター・ウォーズ』などの既存シリーズの発展形に力を注ぐ。ロサンゼルス本社、スタジオを拠点とする一極集中型、豪華大作主義でもある。テーマパーク、TV、キャラクター商品などリアルの世界での存在感が強みだ。
■ディズニーはストリーミング・ファーストへ
両社のこれからの戦略の柱は何か。ずばり、D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー、コンテンツ作成者が、顧客に直接アプローチすること)とストリーミング・ファーストだと著者は説く。
ネットフリックスは膨大な視聴パターンの分析によるリコメンド機能の拡充など技術分野への投資を進めている。追いかけるようにディズニーはストリーミングに一本化すると宣言。衛星、ケーブル、地上波などに提供してきたチャンネルを止める、ビジネスモデルの大転換を図っているのだ。
今、世界のメディアは必死にDX(デジタルトランスフォーメーション)に対応している。どんな産業にいても、本書に描かれる攻防には刺激を受けるはずだ。
情報工場エディター。医療機器メーカーで長期戦略立案に携わる傍ら、8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」のエディターとしても活動。長野県出身。信州大学卒。