ひらめきブックレビュー

Sansanにみる革新力 価値生み出す「シェイパー」とは 『Shapers 新産業をつくる思考法』

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「Shaper(シェイパー)」という新しい言葉がある。「創造性を発揮して、新しい価値を形づくろうとする人」という意味だ。国際機関・世界経済フォーラムは、多様な分野で活躍する20~30代の人材を「Global Shapers」と名付けている。

そのShaperの生き方や考え方に焦点を当てているのが本書『Shapers 新産業をつくる思考法』だ。創造性を持って新しいことに挑戦している日本企業や人を取り上げ、戦略や運営方針など、その特徴をくわしく説明している。登場するのは名刺管理サービスのSansan(サンサン)、不動産情報サービスのLIFULL(ライフル)などベンチャー企業を中心に、ソニーといった伝統的大企業を含む9社。著者自ら各社のキーパーソンにインタビューし、新しい事業や産業を作り出すための思考法を引き出している。

著者の伊藤豊氏は、ベンチャーを人材面から支援する会社、スローガン(東京・港)の代表取締役社長。学生向けメディア「Goodfind」なども運営している。

■Sansanの成功理由

世界的に成功している日本発ベンチャーとして、最初に紹介されているのがSansanだ。クラウド型名刺管理のサービスを提供している。著者は、この名刺管理という狭い機能を磨き込んでいることが、同社の強さになっていると指摘する。

得てして日本のベンチャーは事業を広げ「なんでもする」会社になりがちだ。とくにIT(情報技術)企業は自社のプロダクトを持っておらず、受託開発会社になっている場合が多い。だがグローバルに目を向ければ、一つのプロダクトを持ち、それを磨く会社が成功している。プロダクトの磨き込みこそが、顧客への提供価値や社会的インパクトを高めるのだ。

名刺管理というエッジの立ったサービスで勝負してきたSansanは、ビジネスの出会いが持つ可能性に注目。今ではイノベーションを生む出会いをつくり出すという、世界共通の課題に取り組んでいる。名刺管理という一見狭い機能の価値を、イノベーションの領域に広げた発想と組織の実行力には、著者も「すごい」と舌を巻く。

■イノベーションの意思を浸透させる

組織のあり方にも本書は踏み込んでいく。例えば、Sansanでは2年に1度「カタチ議論」というユニークな会議が開かれる。企業理念「Sansanのカタチ」にあるミッションやバリューズについて、全社員で議論をするのだ。約730人の社員が100グループに分かれて話し合う段階から始まり、部署で議論、管理職以上、取締役以上……と4つのフェーズに分かれている。費やされる時間は4フェーズ合わせてなんと5000時間ほどだという。

実は「出会いからイノベーションを生み出す」という言葉も、この会議から生まれた。イノベーションを確実に起こす法則はないが、イノベーションへの意思を隅々まで浸透させる同社の取り組みは、組織づくりのよいヒントになるだろう。

自分は安定志向だから、ベンチャーや事業創造的な思考は向いていない、と考える人もいるかもしれない。だが著者は、自分で自分の仕事を生み出せる力を持つことが究極の安定だと説く。揺るぎないキャリアを歩みたい人こそ、Shaperの生き方を参考にしてみてほしい。

今回の評者 = 安藤奈々
情報工場エディター。8万人超のビジネスパーソンに良質な「ひらめき」を提供する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」編集部のエディター。早大卒。

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