2004年のカール・ラガーフェルド以来、今や定番となったファストファッション「H&M」と有名デザイナーのコラボ。「あのデザイナーの服がこの価格で」という驚きはあるが、筆者は何度も袖を通す愛用品にはならなかったという。その理由はファストファッション側の「らしさ」の希薄さだった。

H&Mが日本に上陸した08年に実施された、「コム デ ギャルソン」とのコラボ
H&Mが日本に上陸した08年に実施された、「コム デ ギャルソン」とのコラボ

 前回はアパレル業界で広がっているコラボレーションについて触れた。これはファストファッションの領域でも同様だ。

 先べんをつけたのは2004年、「H&M」が有名デザイナーのカール・ラガーフェルドとコラボしたことだった。顧客に向けたクリスマスプレゼントということで、ラグジュアリーなものをH&Mの価格帯で提供するという企画をカール・ラガーフェルドに依頼したのである。

 低価格で流行を盛り込んだ服を提供しているH&Mと、「シャネル」などを手がけるカール・ラガーフェルドがどのようなコラボをするのか。特別企画として期間と数量限定で行われ、世界各国のショップに人が集まって飛ぶように売れた。

 当時、H&Mはまだ日本に上陸していなかったが、業界で話題になったのを覚えている。その後も「ステラ・マッカートニー」「ヴィクター&ロルフ」など、同社は錚々(そうそう)たるデザイナーとのコラボを続けている。最新は「シモーネ・ロシャ」とのコラボで、オンライン限定だったがあっという間に売れた。

「あのデザイナーの服がこの価格で」が顧客を魅了、しかし

 いずれのコラボも話題を集め、大きな集客に結びついている。だが、成果はそれだけではない。

 カール・ラガーフェルドが発想したデザインをどうやって実現するかについて、H&Mは多くの知恵と労力を賭したはずだ。それを乗り越えて形にしたからこそ、「あのデザイナーの服がこの価格で」と顧客は魅了されたのだ。とともに、ブランドのイメージアップにつながった。新しいことに挑戦する姿勢に引かれる消費者は少なくなかったのである。

 カール・ラガーフェルドにとっても、コラボで提示される対価以外に、成果として得たものは大きかったのではないか。高価格帯でも低価格帯でも対応できるデザイナーとして力量の大きさを見せることができた。斬新な企画を成功させた立役者として取り上げられることで、時代の先端に位置するイメージを根づかせることもできた。

 発表された服が期待を裏切らなかったことも大きい。H&Mとカール・ラガーフェルド双方のファンにとってコラボがポジティブに働くとともに、幅広い層への情報発信と購買につながったのである。

 H&Mが日本に上陸した08年には、「コム デ ギャルソン」とのコラボが行われた。時代に対して常にアバンギャルド(前衛、革新)を提示してきたコム デ ギャルソンとH&Mのコラボは、意表をつく組み合わせとして注目を浴びた。原宿店オープンに合わせた企画だったが、明治通り沿いのショップに大行列ができたほどだ。

 混雑している特設コーナーで私が手に入れたのは、オーガンジーのブラウス。丸い襟と水玉模様がコム デ ギャルソンらしさを物語っている。それが同ブランドの通常商品の半額くらいの価格で手に入るのだ。

 しかし、実際に袖を通したのはほんの数回だけだった。なぜかと考えてみて、コム デ ギャルソンらしさは感じられるのだが、H&Mらしさがどこかにあるかというとそうでもない。コム デ ギャルソンの良さを求めるなら、同ブランドの商品を手に入れたほうが良かったと感じたのである。価格の安さとハードルの低さというファストファッションの特徴以外に、コラボすることによって生まれた創造的な価値が弱かった。コラボが両ブランドの創造性がぶつかり合う面白さにまで昇華されていなかったと言ったら言い過ぎだろうか。だから、何度も袖を通す愛用品にはならなかったと気づいた。

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