ひらめきブックレビュー

火の発見で脳が大きく 化学の発見から歴史をたどる 『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』

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人類の歴史は何によって動いてきたのか? その問いに「化学」と答えるのが本書『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』だ。

水や空気、土、石、木、金属などの「物質」を対象とした、化学という研究分野がどのような探究過程をたどり、その成果がどのように人類の歴史に影響を与えてきたかを平明にナビゲートする1冊。アリストテレスの「四元素説」から現代の「終末時計」まで幅広いトピックが紹介されており、世界史を大きく動かした化学のエポックメーキングな発見や出来事を知ることができる。

著者の左巻健男氏は、理科教育・科学コミュニケーションを専門とする元法政大学教授・現東京大学非常勤講師。

■火によって進化した人類

化学というと、とっつきにくさを感じる人もいるだろう。だが本書には身近な「化学的現象」が多く登場する。例えば「火」。火は、世界史上、つまり人類史上にとって最初の化学的現象であったと著者はいう。

火は、「燃焼」という化学反応にともなう激しい現象だ。自然の野火、山火事などに、動物たちは「おそれ」を抱いて近づくことはなかったが、私たちの祖先は持ち前の「好奇心」でそのおそれを乗り越えた。彼らは火への接近・接触を繰り返す中で、いつしか火を利用することを覚えた。

火の利用はどんな影響を与えたか。まず、火によって肉を加熱すると、やわらかくなり消化吸収がよくなる。すると人類の臼歯は小さくなり、胃腸の容積が縮小。消化に費やすエネルギーは脳へ回り、脳容量が大きくなる。約180万年前の原人の時期に、人類は火を使い始めたとされ、このときから道具を使い積極的に狩りを行うようになったと考えられている。つまり火の発見によって進化したのだ。

さらに、燃焼に注目することで化学者が「酸素」を発見したり、燃料が木炭から石炭へと変わりエネルギー革命が起きたりするなど、意外なつながりも明らかにされている。著者は、省エネルギーや再生可能エネルギーへも言及。二酸化炭素を出さない水素エネルギー利用のために、化学技術者が日夜努力していることを付け加えている。

■「鉄と血によって解決する」

化学技術は持つ者が持たざる者を圧倒するという穏やかならぬ側面もある。その一例が「製錬」だ。金属の鉱石から金属を得る技術で、とくに鉄を得るのは高度な技術だった。

鉄の利用が広がると、鉄の種類を組み合わせた強靭な「鋼」も量産化される。やがて生まれたのが、鋼鉄製の大砲だ。これが1871年のドイツ帝国の成立に一役買った。そのいきさつは本書に詳しいが、ドイツ帝国統一を目指していたプロイセン王国首相、ビスマルクは「ドイツ統一問題は鉄と血によって解決する」と演説したという。この場合の鉄とは、鋼鉄製の大砲を指す。当時の主流だった青銅製の大砲に比べて、圧倒的な威力を持っていたのだ。

身の回りにある物事のルーツは、化学的成果だと分かる本書。好奇心が再起動されること間違いなしだ。

今回の評者 = 山田周平
情報工場エディター。8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」エディティング・チームの一員。埼玉県出身。早大卒

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