リモートワークが浸透している。オフィスから離れて、部下やチームをどうマネジメントすればいいのか。頭を悩ませているマネジャーやリーダーも多いはずだ。
リモート環境下に必要なマネジメントについて解説しているのが本書『これからのマネジャーは邪魔をしない。』。著者の石倉秀明氏は、700人以上のメンバーがフルリモートで働く人材サービス会社、キャスター(宮崎県西都市)の取締役最高執行責任者(COO)。いわばリモートワークのマネジメントのプロフェッショナルだ。リクルートHRマーケティング、リブセンス、ディー・エヌ・エー(DeNA)でプレーヤー、マネジャーとしてキャリアを積み、同社へは2016年に参画した。
そんな著者が掲げるのが「邪魔をしない・何もしない」マネジメント。これは何もかも放置するという意味ではなく、必要以上の干渉や監督をしないということだ。リモート時代のマネジャー像とはどのようなものなのか。
■「みな違う」という多様性を理解すべき
まずは、これからのマネジャーがもつべき認識の話から。著者は、「多様な働き方」「多様な価値観」を認めることが大事だという。仕事に対する価値観や働きやすい方法は皆それぞれ違う。だがオフィスではその違いを意識せずに、同じ行動を求められる場合が多かった。「仕事は好きでも人付き合いは苦手」という人は、会社の合宿や飲み会に意欲が湧かなかっただろう。
だがリモート時代には、働き方の多様化とともに会社との距離感や価値観の違いが改めて目につくようになる。その時に、どんな立場であれ、他者の働き方や価値観に干渉したり、邪魔をしたりする権利はない――これが著者の主張だ。メンバーが「みな違う」こと、多様性を許容したマネジメントが「邪魔をしない」という方針につながる。
■特別なことはしなくていい
だからマネジャーはこれまでのようにチームの一体感を追求したり、部下のモチベーションを上げたりする必要は必ずしもない。それよりも著者は、マネジャーが果たすべき仕事を「チームに与えられたミッションを、チームで達成すること」だとシンプルに定義する。具体的に考えるべきポイントは、次の4点だ。
(2)各メンバーの権限を明確にする
(3)情報の透明性を高める
(4)「何を言っても大丈夫」という雰囲気を作る
(1)はメンバーに合わせた適切な目標をつくること。本人のやりたいこととチームの方針に結び付いた、頑張れば手がとどくような「絶妙な」目標を設定できるかどうかが、リーダーの腕の見せどころになる。(2)や(3)は物理的な姿が見えないリモートワークで、お互いが疑心暗鬼にならないために必要だ。(4)は、リモート以外の職場にも求められるものだろう。
こうしてみると、リモートワークのマネジメントは特別なことではない。どんな環境であれ、任された役割やミッションを達成するという「仕事の本質」は変わらないのだ、と著者は説く。本書は、会社で働くことの意味をもう一度捉え直すきっかけにもなる。
情報工場エディター。8万人超のビジネスパーソンに良質な「ひらめき」を提供する書籍ダイジェストサービス「serendip」編集部のエディター。早大卒。