ジェンダーレスでヒットを狙え

いまや「ジェンダーレス」という視点抜きに商品開発やマーケティングはできない時代だ。男性にも化粧水や美容乳液などの基礎化粧品で肌を整えたり、補正クリームで肌をきれいに見せたりしようという意識が広がる中、男性・女性の壁を意識せず、ジェンダーレスに自分らしさを追求できるメンズコスメ「BOTCHAN(ボッチャン)」が注目を集めている。

アンド・コスメ(大阪市)が販売するメンズコスメブランド「BOTCHAN」。パッケージデザインはグラフィックデザイナー/アートディレクターの飯高健人氏が担当
アンド・コスメ(大阪市)が販売するメンズコスメブランド「BOTCHAN」。パッケージデザインはグラフィックデザイナー/アートディレクターの飯高健人氏が担当

 Z世代を中心とした「ジェンダーレス」志向が、商品やサービスをつくるうえで重要なキーワードになってきた。性にとらわれず自分らしさを表現しようという動きは、若い世代に確実に広がっている。メーカー側もこれも対応し、ジェンダーレスな商品開発やマーケティングを視野に入れる必要がある。

 象徴的なのが、スキンケアやメークなどのコスメ市場だ。さまざまな調査が示す通り、若い男性にとってスキンケアは当たり前。「美肌男子」「美白男子」という言葉もごく普通に耳にするようになった。メークも、もはや女性だけのものではなくなってきている。

 化粧品・コスメ情報専門ポータルサイト「@cosme」の「美容に関するアンケート」(2021年1月実施)によると、15~29歳男性は、ほかの世代の男性に比べ、「スキンケア」「おうち美容」「ボディケア」「美容機器・美容グッズ」「ファッション」「ヘアケア」「メイクアップ」への関心が極めて高い。

 「○○は男性が使うもの」「□□は女性向け」といった従来の固定観念が通用しなくなってきているのだ。こうした変化に敏感な企業は、続々と対応している。

 花王グループのエキップ(東京・品川)は20年2月、ジェンダーレスなスキンケア&ライフスタイルブランド「athletia(アスレティア)」を立ち上げた。同3月にはフラッグシップショップを東京・表参道にオープンしている。

 パナソニックが20年7月に発売したZ世代男性向け「ファーストシェービングシリーズ」は、ひげそりのほか、眉毛の手入れやデリケートゾーンのケア用に人気だという。同シリーズは「第14回キッズデザイン賞」で経済産業大臣賞を受賞した。

 富士経済(東京・中央)によると、19年のメンズコスメ市場は1199億円(前年比1.6%増)。11年以降、8年連続の伸びを見せており、22年は1237億円(19年比3.2%増)と見込まれている。

 メンズコスメが広がった背景には、新型コロナ禍も関係しているとみられている。テレワークの広がりで、リモート会議をする機会が増えた。カメラを通して自分の顔に向き合うようになり、以前は気にならなかった表情の疲れや肌荒れが気になる人が増えたというのだ。在宅時間が長くなったことで、入浴やスキンケアにかける時間を取りやすくなったことも大きい。

【特集】ジェンダーレスでヒットを狙え
【第1回】 狙うは「繊細男子」 ジェンダーレス化で激変したマーケの鉄則 ←今回はココ
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 従来のメンズコスメは、「男性らしいかっこよさ」や「異性からのモテ」を意識した商品が多かった。パッケージは黒や白といった寒色系で、メンソールが入ったすっきりとしたイメージの商品だ。

 アンド・コスメ(大阪市)が16年に立ち上げたメンズコスメブランド「BOTCHAN」は、そんなメンズコスメの市場でひときわ異彩を放つ存在だ。パッケージはオレンジやピンク、黄や緑など、非常にカラフル。商品ラインアップは、洗顔フォーム、化粧水、美容乳液、メンズ肌補正クリーム、コロンスティック、リップバームの6種類で、ラインアップごとにデザインが異なる。天然植物由来成分にこだわり、パラベンフリー、ノンアルコール、無着色など、肌の負担になりにくい商品づくりが特徴だ。

左から、ボッチャン ジェントルクレンザー(2090円、税込み、以下同)、ボッチャン フォレストトナー(2200円)、ボッチャン フラワーモイスチャライザー(2530円)、ボッチャン スキンパーフェクター マット(2530円)、ボッチャン コロンスティック(2530円)、ボッチャン ハニーリップバーム(1430円)
左から、ボッチャン ジェントルクレンザー(2090円、税込み、以下同)、ボッチャン フォレストトナー(2200円)、ボッチャン フラワーモイスチャライザー(2530円)、ボッチャン スキンパーフェクター マット(2530円)、ボッチャン コロンスティック(2530円)、ボッチャン ハニーリップバーム(1430円)

 新型コロナの影響で、BOTCHAN公式ECサイトの売り上げは約3倍に増えたという(19年と20年を比較)。異業種からも注目を集めている。21年2月にはワールドグループのエクスプローラーズトーキョー(東京・港)が展開するメンズブランド「tk.TAKEO KIKUCHI(ティーケー タケオキクチ)」とのコラボレーションが実現。タウン着としても着られるパジャマセットやガウンなどを発売した。蔦屋書店(東京・渋谷)の6店舗でポップアップイベントを開催したこともある。BOTCHANの商品と一緒に、「自分探し」をテーマにした書籍を販売した。

メンズコスメが女性の心もつかんだ理由

 BOTCHANのコンセプトは、「『男らしく』を脱け出そう。」だ。「男性らしく」「女性らしく」という型にはまらず、ニュートラルな感覚で自分の個性に合ったおしゃれを模索する。

 ターゲットは「繊細男子」。STUBBINS(スタビンズ、東京・千代田)の代表であり、BOTCHANのブランディングディレクターを務める福岡英一氏は、「繊細男子のイメージは、女性用の香水を着こなしているような男性」と話す。

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