全国のスーパーの棚で2021年3月29日を境に、ある“異変”が起きる。見慣れた「コカ・コーラ」500ミリリットルのペットボトルがほぼ消え、350ミリリットルと700ミリリットルの2ラインが中心となる。なぜ売れ筋商品を大幅刷新するのか。その背景には客のニーズの変化を敏感に捉え、「当たり前」を疑った日本コカ・コーラの深謀遠慮があった。

 日本コカ・コーラが実に約25年ぶりとなる、ある“新商品”を発売する。同社の顔である「コカ・コーラ」を刷新。21年3月29日より全国のスーパーで、順次販売を開始する。首都圏の一部スーパーではテスト販売が20年1月から行われており、今回の全国展開はその成功を受けてのものとなる。

 ではいったいどんな新商品なのか。実は、中身はおなじみのコカ・コーラと全く同じ。変わるのは「量」だ。これまでのスーパーでの主力は、500ミリリットルと1.5リットルの2種類。これを350ミリリットル、700ミリリットル、1.5リットルの3種類に変更する。

新たに発売される350ミリリットルと700ミリリットルのペットボトル
新たに発売される350ミリリットルと700ミリリットルのペットボトル

 コカ・コーラのペットボトルが日本で最初に登場したのは、今から40年近く前の1982年。ペットボトルはそれまではしょうゆなどの容器として使われていたが、この年に清涼飲料への使用が認められ、それまでは缶やビンが主力だったなかで、初めて1.5リットルのペットボトルが投入された。そして96年、小容量のペットボトルも解禁され、現在の主力商品である500ミリリットルのペットボトルが発売。「エリアによっては小容量のコカ・コーラなどはこれまでもあったが、メインとしてペットボトルの容量を変更するのは約25年ぶり」(日本コカ・コーラ マーケティング本部 炭酸カテゴリー コカ・コーラTMグループの安念剛シニアマネジャー)だと言う。

日本コカ・コーラ マーケティング本部 炭酸カテゴリー コカ・コーラTMグループ シニアマネジャーの安念剛氏。コカ・コーラブランドのマーケティングを専任で担当
日本コカ・コーラ マーケティング本部 炭酸カテゴリー コカ・コーラTMグループ シニアマネジャーの安念剛氏。コカ・コーラブランドのマーケティングを専任で担当

 このサイズ変更が行われるのは基本的にスーパーのみ。自販機やコンビニでは、これまで通り500ミリリットルがメインだ。販路によって容量を変える理由は、同じ「コカ・コーラ」という炭酸飲料でも、購入場所によって消費者の飲用の仕方が全く異なることが分かってきたからだ。

飲用シーンがスーパーとコンビニで全く異なる

 「500ミリリットルという容量は本当に正しいのか」。安念氏がここに疑問を持ったきっかけは、米国本社での成功事例を耳にしたからだ。米国では、大型スーパーなどでコカ・コーラをまとめ買いする人が多い。このニーズに対応するために、4本あるいは6本単位でまとめ売りし、1本単位で買うよりも少し価格を下げて販売。日本では缶ビールでおなじみの手法だが、このセット売りが米国の消費者の支持を集め、売り上げを伸ばすことができたという。「新製品の開発ではなく、既存製品の売り上げを見直すことで成長の余地があるかどうか、グローバルで探る動きが広がっている」(安念氏)。既存商品にチャンスはないのか、日本でも2年前からゼロベースでの検討がスタートした。

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