STORY 東京海上日動火災保険 vol.31

地元で学んだ未来の街づくり、経験生かし「社内副業」に挑戦

東京海上日動火災保険 茨城支店 茨城南支社
木村 知里さん

入社4年目。茨城県つくば市役所への出向は、東京海上日動火災保険の木村知里さん(27)にとって大きな挑戦だった。そこから丸1年、市役所で先端技術を駆使した製品・サービスの実証事業に携わるなかで、東京海上日動が挑むスマートシティの取り組みを知った。営業支社に戻ったいま、全社プロジェクトであるスマートシティ戦略チームのメンバーに立候補し、「社内副業」という新たな働き方にチャレンジしている。いくつもの挑戦を力に変え、木村さんの歩む道は未来の街へと続いていく。

ハイブリッドな一日

「これってどういう意味ですか?」。オンライン会議のパソコン画面の向こうには、東京本店に拠点があるデジタルイノベーション部スマートシティ戦略チームのメンバー。木村さんはチームのなかで北海道と東北地方を担当し、支店・支社のスマートシティ関連の取り組みを支援する。勉強会の資料づくりなどでわからないことが出てきたら、隔週で開かれるチームの定例ミーティングの場や、オンラインのチャットツールを活用し、まるで同じオフィスにいるような感覚で問いかける。

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木村知里さんは茨城南支社で働きながら、東京本店のスマートシティ戦略チームにも携わる

とはいえ木村さんの「本業」は、茨城支店茨城南支社で保険販売を専業とする代理店を支援する業務。スマートシティ戦略チームでの仕事は、2020年9月に導入された社内副業の制度「プロジェクトリクエスト制度」を使って始めた。

全国の社員が各地で現在の業務を担いながら、東京本店のコーポレート部門のプロジェクトに参画できるようにする同制度。それぞれの挑戦を後押しし、社員の多様なアイデアを引き出してイノベーションにつなげる狙いがあり、就業時間の約1割を本店のプロジェクト業務などにあてられる。木村さんの一日はハイブリッドだ。朝出社して、まず1時間、スマートシティ戦略チームのリモートの打ち合わせに参加。終了後、担当する保険代理店を訪問する。オフィスに戻ったら、新商品の提案書作成や代理店の経営関係の数字の確認などデスクワーク。夕方は副業のほうで担当エリア向けのオンライン勉強会を開催する。

損害保険会社とスマートシティ。一見つながりが見えにくいが、全国の支店・支社、その先の保険代理店を通じて地域の課題に向き合ってきた同社であれば、長年蓄積してきた災害データなどを活用して「安心・安全な街づくり」に貢献できる。さらにスマートシティの取り組みに参画する地場企業をサポートすることで地域経済が活性化し、挑戦する人や企業が増えれば、自社の成長につながるというのが同社の「地方創生」の考え方。木村さんは、最前線でこの取り組みを実践する社員の一人だ。

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リアルの打ち合わせに、オンライン会議。ハイブリッドな働き方で二足のわらじを履きこなす

ただ木村さんにとって地方創生も、スマートシティも、1年少し前まではあまりなじみがなかった。社内副業という新しい働き方への挑戦に踏み出すきっかけになったのは、つくば市役所への出向だった。

相手の困りごとをお手伝い

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1駅隣の市役所への出向は、木村さんに大きな変化をもたらした

2019年9月。木村さんを呼んだ支社長は、翌月から市役所へ出向するよう告げた。過去に市役所へ出向した先輩が身近にいたので、いつかは自分に声がかかるかもしれないと漠然と思っていたが、当時まだ入社4年目。それまで同社からつくば市に出向したなかでも最年少の社歴で、予期せぬ辞令だった。

「社会人生活にも、仕事にも慣れ、保険代理店さんとの信頼関係もできてきて、やっと自信を持てるようになったころ。先輩社員に教えてもらうだけでなく、自分で提案していきたいと考えていた矢先だった」。グループ会社や保険代理店への出向なら、まだイメージは湧いた。保険と全然関係ないようにみえる市役所で何をすることになるのか、不安が募った。

初めて出向先に向かう日。いつもと1駅違う、市役所の最寄り駅で下車し、建物に入り、その日から所属する政策イノベーション部科学技術振興課のフロアへ。まず気づいたのは、「電話が鳴らない」。支社では代理店からひっきりなしに電話が入るが、科学技術振興課は市役所といっても市民の窓口ではなく、頻繁に電話がかかってくることもない。木村さんはさっそく自分がこれまでいた環境との違いを肌身で知った。

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支社に響く電話のベル。静かな市役所の職場に、これまでと違う新たな環境に飛び込んだことを実感した

木村さんの担当は「つくばSociety(ソサエティー)5.0社会実装トライアル支援事業」。全国から新しい技術を使った製品やサービスを公募して市内で実証する枠組みで、地域の課題解決や、市民生活の向上につなげることをめざす。

例えばドローンによる配送のトライアル。山間部でなく、市内の住宅街でドローンを飛ばすには、「人や車など第三者の上空にかからないようにする」など関連する法規制がいくつもある。関係各所と連絡・調整にあたるほか、住民への説明も必要だ。木村さんの担当した案件では、住宅街で飛ばすことに反対の声が出るのではないかと懸念されていた。ふたを開けると、住民からは前向きな意見が多く寄せられた。実証実験のあいだ、飛行ルートの下を人や車が通らないように念入りに交通規制の段取りを進め、「当日、無事に予定地にドローンが現れた瞬間は、事故なくトライアルを終えられたことに心から安堵した」。

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「つくばSociety5.0社会実装トライアル支援事業」では審査会のオンライン化に部署全員で知恵を出し合った

2020年度の上期には、同年に実証に臨む製品やサービスの公募事業を担当した。例年、審査会は公募した提案者や審査員、一般の来場者も招いて、イベント形式で実施していた。しかし新型コロナウイルス感染症の流行で人が集まることが難しいなか、どう開催するかが課題となった。「各所をオンライン会議システムでつないで、その様子を動画配信サイトから生中継する」「提案者のプレゼンテーションは安全策をとって事前に撮影して送ってもらう」。木村さんも課題の解決につながるよう、積極的にアイデアを出した。

それまで対面だった審査会をオンライン化する――。木村さんに知見があったわけではない。もとより損害保険業界から未経験で市役所の業務にあたるなか、毎日が試行錯誤、知らないことの連続だった。そのなかでも、何が問題か、みなが困っていることは何か想像をめぐらせ、解決に知恵を絞り続けた。それが信頼関係を築くうえで大切だとよく分かっていたからだ。「代理店さんの信頼を得るのも同じ。相手の困りごとを理解し、解決のお手伝いができると信頼関係が深まることを支社での4年で学んでいた」。部署全員で知恵を出し合い、見事に審査会は成功。木村さんと二人三脚で同じ仕事に携わり、OJTで色々と教えてくれた市役所の先輩女性から、「木村さんがいてくれてよかった」と言葉をかけてもらえたのが大切な思い出だ。

挑戦を後押しする

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コロナ禍が続くなか、リモートで取材に応じた

審査会が終了し、木村さんの1年の出向期間も満了となった。新たに実証することになった製品やサービスを見届けたいという名残惜しさはあったが、木村さんの思いは次のステージに進んでいた。

つくば市のスマートシティ構想。科学技術振興課には「スマートシティ戦略室」があり、あるとき東京海上日動の戦略チームが訪ねてきた。自社にそのような専門チームがあることも知らなかったという木村さん。折しも帰任のタイミングで社内副業制度が始まることもアナウンスされており、スマートシティ戦略チームも人員を募集していた。「今度は東京海上日動の社員としてスマートシティの仕事に関わり、大好きな地元や、お世話になったつくば市役所のみなさんに貢献したい」。新たなチャレンジに飛び込むことを決めた。

出向を経験した木村さんの一番の収穫は「広い視野で物事を見ることを学んだこと」。それまでは保険会社の社員として、顧客、保険代理店の視点で考えるよう心掛けていた。しかし市役所の職員たちは地域の課題解決のために、市民、企業、法律、いろいろな角度から物事を考えている。大学を卒業してつくば市内で働いてきたが、市全体を見る視点を得て、それまで意識していなかった高齢化などの地域の課題解決のために役に立ちたいと思うようになっていた。

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保険販売を専業とする代理店の支援を通じて地域の課題に向き合う

日本各地の街が直面する課題を、最先端技術で解決する。東京海上日動の挑戦と、木村さんの挑戦が重なり合う。「挑戦」は就職先選びのころからの木村さんのテーマだ。「やってみたいと思ったことができる会社かどうかを重視した」。同社は転居を伴う転勤がない「エリアコース」から国内外の転勤を伴う「グローバルコース」への転換や、挑戦したいポストに応募できる「ジョブリクエスト制度」など、社員のチャレンジを後押しする制度が整っており、多くの社員が制度を利用して、柔軟な働き方を実践している。木村さんも社内副業制度に挑みキャリアをステップアップさせるなか、「出産などのライフイベントがあっても、様々な制度や仕組みを活用して、自分らしく挑戦を続けていきたい」と理想を膨らませている。

出向でもう一つ身に付けたのは、「一からものをつくること」。実用化されていない製品・サービスの実証という、型が存在していない取り組みの説明資料やチラシをつくる。出向前はもともとある汎用の企画書を使用することが多かったが、「何もないところからつくるおもしろさを知った」。挑戦し、新たな力を身につけ、地域の課題を解決する未来のソリューションを開発できるようになりたい。木村さんの挑戦と成長のサイクルは続いていく。

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