紳士服量販店で業界2位のAOKIが2021年2月に発売した「アクティブワークスーツ」が、約1カ月で5000着を販売。同社の一般的なスーツの10倍ペースで売れている。スーツ専門店発でありながら4800円と異次元の安さ。それを商品開発スタートから約3カ月で実現できた背景を聞いた。

 コロナ禍により、対面での会合が激減すると同時にテレワークが普及したことで、ビジネススーツを着る機会は大幅に減った。そんな中、紳士服量販店で業界2位のAOKIが2021年2月に発売した「アクティブワークスーツ」が、快調な出足を記録している。最大の特徴は、ジャケットとパンツのセットアップで4800円(税込み、以下同)という破格の安さだ。

 21年2月1日にオンライン限定で先行予約販売を実施したところ、2週間で完売。2月15日と22日に追加販売を実施したがこちらも3月4日までに売り切り、合計では約1カ月で5000着を突破した。同社の一般的なスーツの販売数は、1品番当たり半年で3000着程度。1カ月で5000着というのは極めて異例だ。AOKIも「広報・宣伝活動はプレスリリースを出したのみで、ここまで売れるとは想定外だった」(AOKI広報室の飽田翔太室長)と驚きを隠さない。その後、3月4日に販売開始した「第3弾」も約10日間で完売している。

ジャケットが2900円(税込み)で、パンツが1900円(同)。色は紺と黒がある。現在販売されている製品は、この写真とは生地が異なる(写真提供/AOKI)
ジャケットが2900円(税込み)で、パンツが1900円(同)。色は紺と黒がある。現在販売されている製品は、この写真とは生地が異なる(写真提供/AOKI)

 アクティブワークスーツは、「これまでスーツを着る習慣が無かった人にも気軽に着用してもらえるスーツ」というコンセプトで開発された製品だ。一般的なスーツは、ジャケットに肩パッドが入って生地もしっかりしており、所々が芯材で補強されていることもある。しわになりにくく、厚みがあって堂々として見える半面、圧迫感や動きにくさ、重さを感じるのも事実。ジャケットを脱いだときはハンガーに掛けないとしわが気になるし、汚れたらクリーニングに出す必要があるなどメンテナンスにもコストがかかる。

 近年は、仕事をしていない「オフ」のときに、おしゃれとしてTシャツやスニーカーとスーツを合わせたいことがあるが、仕事用のスーツは価格だけでなく、着心地や取り扱いの面でオフで気軽には使いにくい。

 これに対してアクティブワークスーツは、軽さと動きやすさを重視して伸縮性がある薄手の生地を採用。素材は化学繊維(ポリエステル、ポリウレタンなど)でしわが付きにくく、汚れても洗濯ネットに入れれば家庭用洗濯機で洗える。洗えるスーツ自体はこれまでもAOKIにあったが、アクティブワークスーツの生地はよりしわになりにくく、乾きが速い。

仕事でも使えるが、Tシャツなどと合わせたカジュアルな着こなしの方がより適している(写真提供/AOKI)
仕事でも使えるが、Tシャツなどと合わせたカジュアルな着こなしの方がより適している(写真提供/AOKI)

 そして何よりもすごいのは、スーツ専門店がこれを4800円で製品化したことだ。ユニクロの「感動ジャケット」「感動パンツ」も似たコンセプトと機能だが、こちらはジャケットが5990円でパンツが3990円と、アクティブワークスーツの2倍以上の価格になる。AOKIという大手企業の信頼感とこの安さ、それにオンライン販売の手軽さが重なれば、ある程度ヒットするのは自明かもしれない。この異次元のコスパのために、AOKIはギリギリの工夫をした。

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