ひらめきブックレビュー

努力が成果の妨げに 最速・最短・最少で考える仕事術 『行動の品質』

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どこの職場にも一人や二人、周囲から一目置かれる逸材がいるものだ。同じ条件でも成果を出す、いわゆる仕事ができる人は、他の人と何が違うのだろうか。

本書『行動の品質』によると、成果を出す人は、最小限のエネルギーで、最大の成果が得られるように考え、行動するという。これを著者の伊藤健太氏は「行動の品質が高い」と表現する。伊藤氏は、個人事業主や起業家を支援するウェイビー(東京・渋谷)の社長で、同社の支援者数は10年間で1万人を超える。本書は、起業家支援を行う中で見出した、行動の品質を高める考え方と実践方法をまとめた一冊だ。

■マインドセットを変える

良くも悪くも日本人は、コツコツ努力することが得意だ。しかし、長い下積みや努力があって当たり前とするようなマインドセットは、現状の進歩よりイノベーションが必要な現代にマッチしないと著者は説く。

行動の品質を高めるためには、まず、マインドセットを変えることが大事だ。著者が挙げる大切なポイントが「最速最短最少で最大最高最適な成果を出すことを最優先で考える」。つまり、どのような時でも時間やお金、労力を使わずに目標を達成できないか?と考えるのである。

もちろん努力を否定しているのではない。より良い解決法を生み出すように、努力の方向を柔軟に変えるのである。その際に有効なのが「リフレーミング」という手法だ。物事を違う枠組みから捉え、問題設定を変えることである。

本書の例を見てみよう。毎朝エレベーターホールに社員が列をつくり、クレームが殺到している。あなたがビル管理会社の社長だとしたら、どう解決できるだろうか。「エレベーターを新設する」「時差通勤を推奨する」「階段の利用者を増やす」――いずれも正解のように見える。しかし著者は、どれも似通った答えだと評する。なぜならすべて「輸送効率」を問題と捉えているからだ。

そこで問題設定を変えてみよう。「輸送効率」から「エレベーターホールでの待ち時間の活用方法」に着眼点を移すと、待ち時間を楽しくするなどのアイデアが浮かぶだろう。このようにリフレーミング、すなわち「問い」の設定がうまくなると、努力すべきことが明確になり、行動の品質が上がっていく。

■ノウハウを得るには最短距離で

「超実践編」としてこんなアイデアも披露される。ある経営コンサルタントの持つノウハウを体得したい。多くの人は、お金を払って講座を受けようと考える。しかし著者は「コンサルタントと一緒にいる」、例えば実際に業務を発注してみる、弟子入りする、といったやり方がてっとり早いと考えるそうだ。

成果が出ない人は、「選択肢を1つに絞り込む傾向がある」との指摘は耳が痛い。最速最短最少の解決法は、柔軟なリフレーミングによる幅広い選択肢があってこそ見つかるのだ。私も読後、家事に筋トレの要素を組み込んで自分磨きの時間と見なすようになった。ぜひあなたも、本書を参考に行動の品質を意識してみてほしい。

今回の評者 = 川上瞳
情報工場エディター。大手コンサルティングファームの人事担当を経て、書評ライターとして活動中。臨床心理士、公認心理師でもある。カリフォルニア州立大学卒。

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