「それでも、都知事のいうように自粛ムードは広がるだろうと懸念していました。出荷できても、買う人がいなければ商売は回りません」(鈴木社長)

そう悩んでいたとき、同じく被災した酒蔵、南部美人(岩手県二戸市)の5代目蔵元、久慈浩介専務(当時、現社長)が動画投稿サイトのユーチューブで声をあげた。「我々にとっては自粛をしていただくことより、お花見をしていただくことの方がありがたい」「日本酒を飲んでいただくことで、我々東北を応援していただきたい」

この訴えは大きな反響を呼び、「東北のお酒を買って飲むことで応援しよう」という動きが全国に広がっていった。一ノ蔵の鈴木社長は「非常に心強い思いでした。自粛しないことが被災地の応援になるという流れができました。我々も『酒造りも出荷も再開した宮城県の桜を思ってお酒を飲んでほしい』と得意先などに呼びかけました」と語る。

復興・応援需要で突然の品薄

11年夏には、被災から出荷や酒造りを再開するまでを動画にまとめてオンラインで配信したほか、DVDにして得意先などに配った。鈴木社長は「社員がみんな笑顔で元気に頑張っていることを見てもらいたかった」と話す。

全国各地で東北応援キャンペーンが始まり、一ノ蔵をはじめとする被災各地の酒蔵には引き合いが殺到した。「1ケースでも多く送ってくれ」という首都圏や関西の顧客に応えようと、例年は6月半ばで終えるはずの仕込み作業を、酒造年度が終わる6月末ギリギリまで延長したという。

鈴木社長は「最初の世代が残っていて、震災のときにリーダーシップを発揮していただけたのは幸いでした」と語る

「酒造りを終えた7月以降、復興支援による需要が予想を大幅に上回りました。仕込みは前年の7割、出荷は5割としていた生産計画を見直したのですが、全く足りなくなりました」(鈴木社長)

酒米の調達が難しくなり始めていた。津波で沿岸部では田んぼが海水につかり、コメづくりができない状況に陥っていたからだ。7月1日から始まった11酒造年度には、酒米が調達できずに十分な酒造りができない可能性も高まっていた。

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阪神で被災の同業「復興景気に浮かれるな」
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