地方中小企業への人材流動、太いうねりに[PR]地方スタートアップへ、副業通じ事業創造加速を

2021/2/10

新時代のキャリア形成

「大企業で能力を生かし切れていない人材に活躍の場を」と語るゼロワンブースターの鈴木規文社長

第3回 大企業以外で働けるカルチャーが必要

2020年は大企業が終身雇用に代表される、日本型雇用の仕組みを手放す動きが目立った。副業や兼業を認める企業が一気に増えた。起業支援を手がける「株式会社ゼロワンブースター」(01Booster、東京・港)の鈴木規文社長は「日本人はショッキングな出来事が起きないと、なかなか行動変容が難しいが、大企業の終身雇用放棄は、多くのビジネスパーソンに別の働き方を促すきっかけになった」とみる。

「大企業には優れた人材が集っているが、その多くが必ずしも実力を発揮するチャンスを手にしていない。大企業は優秀な人材をうまく使い切れないまま、抱えすぎている状況にあり、別の活躍場所を求めるのは、本人にとってポジティブな選択になり得る」(鈴木氏)。その発想に基づいて、同社が主力事業と位置づけているのが大企業人材向けの起業家発掘・教育プログラムだ。20年は9月以降だけでも100本を超えたという。大企業内に眠る起業家人材を刺激して、イノベーションを引き出す試みは「起業家マインドを養った大企業人材が地方に目を向けるにあたっての弾みにもなる」(鈴木氏)。

大企業勤務者に接して鈴木氏が感じるのは、勤続期間に伴う意識の違いだ。「まだ長く勤めていない20代は大企業への執着が薄く、スタートアップへの転職を、むしろ望ましいキャリアパスと考える傾向がある。一方、20年、30年と大企業に勤めた人は『このまま逃げ切りたい』という気持ちが強く、地方の中小企業に抵抗感を示しがち」という。しかし、世界的にみると、米国北西部のオレゴン州にあるポートランドのように、地方都市でスタートアップが盛り上がる例は珍しくない。「都市部の大企業が最良の勤め先という、古い考え方はキャリア選択の邪魔になりつつある」と、鈴木氏は時代の変化を感じ取る。

日本各地の第1次産業や観光、伝統文化などの「経済的資源」は必ずしもまだ十分にビジネスとして生かされていないところがある。大企業経験者ならではの付加価値の高め方やマネタイズの手法を組み合わせれば、もっと商品・サービスを高付加価値化できる余地もある。その際、「自分が経営者にならない場合でも、起業家マインドを持つ人が参画するかしないかでは、事業の展開に大きな差が出る」と、鈴木氏は起業家マインドを備えた大企業人材が地方のビジネスシーンに乗り込むメリットを認める。「起業家ネットワークとの接点を持っていることは、地方中小企業での事業化にパワーをもたらす」と、人的なつながりの大切さも示す。

大企業の職場で能力を生かしきれていない働き手に鈴木氏が求めるのは、「外の世界に接すること」だ。大企業で養ったビジネス知見をビジネスプランコンテストのような場で客観的に評価してもらうことも、外界を知る機会になる。能力の棚卸しは「自分のキャリアをとらえ直すチャンスにもつながる」(鈴木氏)。その意味では同社が主催しているビジネスプランコンテストは格好の腕試しの舞台といえる。「0→1 START! 2020」に全国から107件の応募があり、7チームのプランが採択された。

東京・有楽町のインキュベーションオフィス「有楽町『SAAI』」で開かれた最終選考会には、書類・面談選考を通過した11チームが登場。投資家向けに事業計画を説明する「ピッチ」に臨んだ。鈴木氏は「大企業カルチャーを学んだ起業家が飛び出し、さらに別の事業を立ち上げるような、1社にとどまらないキャリアを応援することは魅力的なスタートアップを育てるうえでも重要な取り組み」と意義を説明する。大企業から飛び出す動きを、当の大企業自身が本気で応援する取り組みは期待しにくいところもあるうえ、ノウハウも乏しいので、「起業家を取り巻く環境づくりに、アクセラレーターが積極的に関わっていく意味は大きい」(鈴木氏)。

新型コロナウイルスの感染拡大はビジネスの「常識」を根っこから見直す機会となった。通勤やオフィスといったインフラはあらためて必要性が問われ、地域をまたぐリモートワークも広がりをみせた。大都市に暮らしながら、地方でリモート勤務するという選択肢が現実味を帯びていて、副業・兼業の前提条件も書き換わりつつある。企業の寿命が一段と短くなる中、「大企業の価値に相対的な低下が起きた」と、鈴木氏は指摘。「もはや大企業はゴールでもステータスでもなくなった。むしろ生涯にわたるキャリアのリスクヘッジを考えるなら、大企業以外のどこででも働けるような、懐の深いカルチャーを身につけるほうが望ましい。そういった意味からも大企業人材が地方中小企業へ移る流れは、この先、太いうねりになる」と期待する。都市部の大企業から地方の中小企業へ」という新しい働き方の波は、働く人の意識変革と相まって、ますます大きな潮流に育っていきそうだ。

第2回 地方スタートアップが大企業人材の受け皿に

起業家を支えるエコシステムの育成を重視する鈴木規文社長

起業支援を手がける「株式会社ゼロワンブースター」(01Booster、東京・港、鈴木規文社長)は、各地域の経済産業局や地方自治体など有力プレーヤーとの連携を通じて、都市部の大企業経験者が働きやすい環境づくりに努めている。具体的なプロジェクトとして柱に据えているのは、経産局、地方自治体、地域金融機関、商工会議所などと組んで、潜在的な起業希望者を掘り起こし育成する取り組みだ。地元で働き続けている希望者も少なくないが、「大都市で大企業に勤める人が地方に移る『Iターン』のような形で、地域に活躍の場を求めるケースは珍しくない」という。

例えば、今年で東日本大震災から10年の節目を迎える東北では、仙台市と共同で「東北グロースアクセラレーター2020」を開催。社会を変えるような革新的なプロダクトを生み出すビジネスプランを募集した。61件のプランが集まり、最終選考でのプレゼンテーションを経て、10チームが選抜された。ゼロワンブースターは10チームをアクセラレータープログラムへ招き、さらにプランを練り上げていくサポートを提供する。3月には東京での事業化案発表が予定されている。鈴木氏は「自分たちのような起業家がプロデュースすることによって、リアル感がぐっと高まる。その際、政府の補助金事業という信頼感は意味が大きい」と、産官学が役割を分担した形での後押しの重要性を説く。

ゼロワンブースターはこういった起業家支援事業を各地域で展開していて、20年は8月に鹿児島市と共に支援プログラムを実施。9月には高知県から起業支援事業を受託した。10月には宇都宮市と共同で「宇都宮アクセラレーター2020」を開催し、ビジネスプランを募集した。地域での起業を目指す人たちを後押しすることは、起業家マインドを備えた新たな人材の受け入れ先が広がることにもつながる。「地方の中小企業には古い慣習や仕組みが残っているところが多く、都市部の大企業人材が戸惑うことは珍しくない。しがらみの少ないスタートアップは大企業人材を比較的受け入れやすい」とみる。

鈴木氏が重視するのは、「起業家を支えるエコシステム(生態系)」の育成だ。「日本では起業家個人の資質に期待しすぎる傾向がある。起業家を取り巻く環境を整えて、起業家本人がスーパーマンのように才能を発揮しなくても、スタートアップが育つ基盤づくりが欠かせない」という。基盤づくりを進めるうえで重要になるのは、行政や金融機関、大学など、地域での経済活動に強い力を持つプレーヤーたちだ。「起業家だけが知恵を得ても、周囲と連携できなくては、結果を出しにくい。スタートアップを軸にエコシステムがそれぞれの機能や役割を生かしてサポートする展開が求められる。大企業人材もその枠組みであれば、地域に参画して能力を発揮しやすいはず」と、起業家を孤立させない受け皿整備の意義を説く。

エコシステムづくりの一環として、関東経済産業局と共同で進めているのが、「Wide Ecosystem Accelerator - 広域連携アクセラレーター」と名付けたプロジェクト。同局のほか、広域関東圏(1都10県)にある自治体や企業、大学、金融機関を巻き込んで、スタートアップを支援するプログラムだ。参加するスタートアップ13社を選んで、事業化に向けたキックオフを済ませた。行政や金融をメンバーに迎えた「産官学金」の基盤は大企業人材にとっても頼もしく映る。「行政も起業もそれぞれのコミュニティーととらえて、複数のコミュニティーが重なり合う受け皿を用意することによって、多様な人材を受け入れやすくなる」と、新たな生態系に期待を寄せる。

地域に根付いた中小企業に加え、大企業人材が魅力を感じやすい地方スタートアップが増えれば、「都市部以外へ大企業人材を招き入れる呼び水になり得る」と、鈴木氏は考える。大企業に勤めた状態のまま、起業プランを熟成させて、地方でスタートアップを立ち上げるような取り組みも、起業家教育の広がり次第では視野に入ってくる。「大企業の寿命が短くなり、見切りをつけやすくなってきた今は、終身雇用を前提としない働き方を選ぶうえで、追い風が吹いているともいえる」と、鈴木氏は大企業依存型キャリアプランからの戦略的な「卒業」に背中を押す構えだ。

第1回 地方中小企業で望まれる意識が必要

起業家育成支援に取り組むゼロワンブースターの鈴木規文社長。大企業人材が語り合う異色のバー「変態」にて

大企業から中小企業へ、都市部から地方へ――。これまでとは異なる働き方やライフスタイルを模索するチャレンジを後押しするプロジェクト「NEW ACTION」は、一般社団法人日本能率協会が旗振り役となって進める取り組みだ。都市部の大企業人材などが地方の中小企業などで活躍する機会を創出するような事業に対し、補助したり関連イベントを通じたりして取り組んでいる。補助金対象に採択された各事業は既に動き出していて、成果も上げつつある。採択事業者の一つとして、起業家支援を手がけるスタートアップの「株式会社ゼロワンブースター」(01Booster、東京・港、鈴木規文社長)。以前から各地で起業家を支えるビジネス基盤を整える事業で実績を上げているアクセラレーターだ。鈴木氏は「都市部の大企業を離れて、地方の中小企業やスタートアップで実力を発揮したいと考える働き手は増える傾向にある」という。

起業家やベンチャー企業を支援するゼロワンブースター自体も2012年に創業した、今年で10年目のまだ若い企業だ。グロービス経営大学院でMBA(経営学修士)を得た鈴木氏が起業を目指すMBA仲間と立ち上げた。鈴木氏は大手ゼネコンやカルチュア・コンビニエンス・クラブなどで15年間にわたる大企業勤めを経験しているが、「大企業信仰」はもはや過去のものとみる。「優秀な人ほど、早めに見切って大企業を辞めている。むしろ大企業で働き続けるのは、キャリア形成上のリスクだという、新たな常識が生まれつつある」(鈴木氏)。

社名の「01」はゼロから1を生み出す新規事業立ち上げを意味する。ロケット打ち上げの際に使う補助推進装置でおなじみの「ブースター」は速度や力を増すための装置で、「後押しする者」という同社の役割を示す。創業以来、起業家の支援を事業の軸に据えていて、事業創造を加速するアクセラレーター事業に力を注いでいる。「大企業人材等の地方での活躍推進事業補助金」の対象事業となったのは、同社が各地で進めてきた、起業を目指す人たちが地域でビジネスを起こす際に重要なマインドセットやノウハウを発信するセミナーやリカレント教育の取り組みだ。

都市部の大企業人材を、地方の中小企業に紹介するという取り組みでは、企業と個人を引き合わせるイベントの開催が効果的と思われがちだ。しかし、「人材マッチングを目的とするイベントに人を集めれば、地方企業への転職がかなうというのは、安易な思い違い」と、鈴木氏は指摘する。地方企業の経営者を多く知る鈴木氏は「地方中小企業の人材ニーズは多面的であり、『最高財務責任者(CFO)を1人迎えたい』といった注文はむしろまれ。総合的な知見を備えたゼネラリスト的人物が求められるケースが多く、短時間の面接でマッチングできるはずもない」と、転職エージェント的な立ち回りの効果を疑問視する。

大企業に籍を置いてきた働き手が地方の中小企業などに活躍の場を求める際、受け入れ先企業にうまくなじめない「ミスマッチ」が起こりがちだ。鈴木氏は「正直なところ、大半はうまくなじめず、離職につながってしまうケースがざら」という。理由は様々だが、圧倒的に多いのは「大企業経験者の高すぎるプライド」。長く都市部の大企業で勤めてきた人は「地方を見下すような意識を持ちやすく、『都落ち』のような気分をにおわせてしまいがち。さらに、中小企業に特有の業務環境に関しても『遅れている』『非効率』といった態度を示すことが多く、新たな勤め先で疎んじられてしまいやすい」と、鈴木氏は大企業経験者の意識に主な原因をみる。

大企業から飛び出す人材にふさわしいマインドセットを持ってもらう必要があるとして、ゼロワンブースターは都市部の大企業向けにビジネスプランコンテスト運営や起業家育成の支援サービスを提供している。東京・有楽町の同社本社と同じフロアで会員制ワーキングコミュニティー「有楽町『SAAI』」を運営。多様な出会いの機会をプロデュースしている。フロア内には異色のバー「変態」があり、大手町や丸の内エリアで働く大企業人材が語り合える場になっている。鈴木氏は「地方や中小企業で働く場合、大企業人材は多様な経験や知見を備えていないと、トラブルを起こしてしまいやすい。でも、ずっと大企業に勤めていると、単一のカルチャーに染まってしまいがち。自ら進んで多様なコミュニティーに触れる機会を増やしてほしい」と、意識面の「大企業病」を避ける態度を促す。

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