菓子やパン材料の通販サイトを運営するcotta(コッタ)は、2020年のマーケティング施策が奏功。30万人を超える新規会員を獲得し、会員数は100万人を突破した。巣ごもり消費拡大の影響も追い風となり、20年9月期の売上高は過去最高となった。極めて順調に見える同社だが、1年半前まで売り上げが伸び悩むも打つ手なしという袋小路に陥っていた。既存顧客のデータを過信するあまり、新規顧客のニーズを見失っていたことが原因だった。

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 「外からは順調に見えていたかもしれないが、実際は成長が鈍化し、勢いがなくなっていた。ほんの1年前までは社内でも閉塞感があり、もはや打ち手がない状況だった」。こう振り返るのはcottaの黒須綾希子社長だ。同社は「データベースマーケティングの限界」にぶつかった。

 cottaはバター、バニラペースト、果物、酵母といった菓子・パン作りに必要な材料から、クッキー型、包装材など、菓子作りに必要な道具までを総合的に扱うECサイト。取扱点数は3万を超える。パティシエなどのプロが使う器具や製菓材料を1点から購入できるサービスとして、菓子・パン作り好きの中では知られた存在だ。レシピや有料動画サービスなど、菓子・パン作りに付随するコンテンツも充実させている。既存顧客のロイヤルティーは非常に高く、中には「cottaの商品が好きで、新商品はとにかく買う。cotta部屋を作って、商品を飾っている顧客もいる」(黒須氏)ほど熱狂的だ。

 ECを主軸としたネット事業故に、購買データなどを解析ツールで可視化しやすいのも特徴。解析ツールのデータを見れば、どの商品が売れ筋か、どのような顧客が何を買っているのか、どのようなコンテンツが購買に結び付きやすいのかも一目瞭然だ。だが、cottaにとってはそれが思わぬ落とし穴となった。

 既存顧客のデータを過信するあまり、新規顧客の獲得施策を企画したはずが、気づかぬうちに既存顧客にしか響かない施策になってしまう。顧客データ分析を突き詰めるほど、マーケティング施策がニッチ化し、新規顧客から遠ざかっていく。そうした負のスパイラルに陥っていた。

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