傾く寺をマーケティングで再生 元銀行員の非常識経営『築地本願寺の経営学』

ペーパーレス化、フリーアドレス制導入、インスタ映えする朝食を出すカフェを併設――。今時のIT企業の話ではない。400年の歴史を誇る築地本願寺の施策である。

日本の寺は、近年、厳しい状況に置かれている。人口減少、葬儀や墓の簡略化、檀家制度の崩壊などが進み、20年後に3割の寺がなくなると予測されているのだ。浄土真宗本願寺派のいわば「子会社」と位置付けられる築地本願寺も、毎年、億単位の赤字が出る状況に陥っていた。

本書『築地本願寺の経営学』は、50歳で僧籍を取得したビジネスマン僧侶の安永雄彦氏が、自ら推進する築地本願寺のリブランディングをまとめた一冊だ。寺という閉鎖的かつ保守的な組織において、画期的マーケティング戦略で顧客創造に挑む。そのプロセスからは、改革の要諦がわかりやすく伝わってくる。

「マーケットイン」を導入

著者は2012年、築地本願寺に評議員、いわば社外取締役として迎えられ、2015年「最大子会社の社長」たる同寺宗務長として改革を開始した。スローガンは「ひらけ!! 築地本願寺。」だ。

有名なのに近づきがたい築地本願寺を誰でも入りやすくするため、うっそうとした木々を伐採するなど外観を変更。また、銀座の中央通りに面したビルにサテライトテンプル「築地本願寺GINZAサロン」を開設し、こころ・仏教・終活などの学びと体験の場とした。マーケットインの発想で、ビジネスパーソン向けにアンガーマネジメントやコーチングなどの講座も設けている。

古い組織ゆえ、何をするにも抵抗がある。しかし著者は、現状の破壊こそがミッションと心得て、改革を推し進める。例えば、サロンの受講料は「2000円でも安い」という著者の主張と「お寺は会社ではない! 金もうけはいけない」という主張がぶつかった結果、1講座1000円に落ち着いた。当初、「お金をかけてサロンを開く意味があるのか?」との議論もあったが、6000人の会員を集めた実績から、現在では批判は減っているという。

改革の成功の秘訣は、「人々の心のよりどころ」という寺本来の役割がぶれないことだろう。心の悩みを個別相談できる「よろず僧談」、誰もが気軽に訪れられる「合同墓」など、いずれの取り組みのベースにも、VUCA(不安定さ、不確実さ、複雑さ、曖昧さ)の時代にあるべき寺の姿が追求されている。

企業の課題との共通点

ところで、著者はいったい何者なのか。経歴の詳細は終盤で明かされる。三和銀行(現三菱UFJ銀行)海外支店勤務などを経て独立。コンサルタント会社代表として経営者層のエグゼクティブ・コーチングを手掛けていたというから、ツボを押さえた改革っぷりに合点がいく。

本書では、ヴァーチャル・テンプル構想、職員へのMBO(目標管理制度)導入、オンライン法要、ユーチューブ法話など、ぶっ飛んだ施策が次々登場する。これらは、寺の取り組みとしてはとっぴだが、じつは、企業の取り組む課題との合致点は多い。ぜひ手に取って、常識を突き破る勢いを取り込んでいただきたい。

今回の評者 = 前田真織
2020年から情報工場エディター。2008年以降、編集プロダクションにて書籍・雑誌・ウェブ媒体の文字コンテンツの企画・取材・執筆・編集に携わる。島根県浜田市出身。

築地本願寺の経営学: ビジネスマン僧侶にまなぶ常識を超えるマーケティング

著者 : 安永 雄彦
出版 : 東洋経済新報社
価格 : 1,760 円(税込み)

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