使い終わったら両手で引っ張ってくるりと巻くだけ。「畳むのが面倒」「袋に入れづらい」というエコバッグの潜在的な不満を解消したのがマーナの「Shupatto(シュパット)」だ。2015年11月発売の人気商品だが、20年7月1日に施行されたプラスチックレジ袋の有料化義務付けが追い風となりさらに大躍進。20年4月から8月にかけてはそれまでの約4年半分とほぼ同じ数量を売り切り、シリーズ累計700万個を記録した。これまでにない新しい発想のエコバッグはどのように生まれたのか。開発者に聞いた。

菊田 みなみ氏
マーナ 開発部 プロダクトデザイナー マネージャー
埼玉県出身。日本大学芸術学部デザイン学科卒業後、2013年マーナ入社。シュパットの開発に関わり、ブランド全体のマネジメントも務める。

 もはやエコバッグの代名詞となりつつあるシュパット。その開発にチャレンジしたのが当時入社1年目の新人だった菊田みなみ氏だ。

 芸術学部のデザイン学科を卒業した菊田氏はプロダクトデザイナーとしてマーナに入社。当初は文房具の商品開発などの手伝いをしていたが、「簡単に畳めるエコバッグがあれば売れるはずなのでちょっと考えてみてほしい」と先輩社員から声をかけられ、それがシュパット開発のきっかけになった。

バッグとして使用したら、両端を引っ張るだけで帯状になる。あとは丸めるだけ
バッグとして使用したら、両端を引っ張るだけで帯状になる。あとは丸めるだけ

 一度広げたものを簡単に畳むにはどうすればいいか。袋をくしゃくしゃに丸めてケースに詰めたり、折り紙遊びのように布を何通りにも折ってみたり、「奇跡やひらめきが生まれることを期待して毎日とにかく手を動かし続けた他、ティッシュペーパーや洗濯物など、身の回りにある“畳まれているもの”をとことん観察した」(菊田氏)。

 「畳む」という行為を考え続けてアイデアがもう何も出てこない状態になった時、ふと頭に浮かんだのが新入社員研修で行った物流センターで配られた折り畳み式の「紙帽子」だった。「広げてから頭に被る薄手の紙帽子で、両端を引っ張ると元の棒状に戻る。研修の昼休みに誰が上手に畳めるか競争して遊んでいたことを思い出した」(菊田氏)。すぐに紙帽子を取り寄せて構造を観察し、布で試作品を作製。試行錯誤の末、袋の両端を引っ張るだけで瞬時に帯状になるシュパットのプロトタイプが出来上がった。

マーナの流通センターで使われていた使い捨ての帽子。棒状のものを広げると帽子になる
マーナの流通センターで使われていた使い捨ての帽子。棒状のものを広げると帽子になる

 商品化に向けてデザイン調整を繰り返すなかで菊田氏が重視したのが“感覚的に使える”ということ。「これまでにない新しい構造の商品だからこそ、手に取った時の分かりやすさが重要だと考えた」(菊田氏)。例えば袋の両端や持ち手など手が触れる部分の生地の色をあえて変えている他、パッケージに入れている説明イラストは社内アンケートを何度も行ってより分かりやすいものを採用している。

 さらに丸めた状態でもコンパクトにするため生地選びにもこだわった。袋にはナイロン繊維を格子状に縫い込んだ「リップストップポリエステル」を採用。登山用品にも使われる生地で薄さと強度を両立できることが特徴だ。

 こうして2015年11月にシュパットが誕生。ユニークなアイデア商品としてメディアなどに取り上げられて認知度が徐々に高まり、20年の「レジ袋有料化」でさらに大爆発することになった。

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