ひらめきブックレビュー

ココイチ創業者、成功の極意 行き当たりばったり経営 『独断』

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「ココイチ」(カレーハウスCoCo壱番屋)といえば、カレーチェーン店の定番だ。ライスの量やルウの辛さ、トッピングなどを選べるメニューが特徴で、国内外に1400店舗以上を展開する。

いまや世界展開するココイチも、始まりは夫婦が名古屋市で始めた一軒の喫茶店という。本書『独断』は、ココイチを展開する壱番屋創業者の宗次徳二氏が、100にのぼる「極意」を挙げ、自らの経験を振り返りながら解説した一冊だ。

■人に頼らない理由

宗次氏は1948年、非嫡出子として生まれ、施設を経て、3歳のとき養父母に引き取られた。極貧の幼少期を過ごし、高校卒業後に不動産仲介会社に入社。妻・直美さんと結婚し、不動産業開業にこぎつける。ところが、直美さんの始めた喫茶店を手伝って客商売に目覚め、喫茶業に転身する。

この例にも表れる通り、宗次氏は、経営は「行き当たりばったりが一番いい」と考える。ただし、いい加減という意味ではなく、考えすぎずに目の前のことに集中し、全力で生きることを意味するという。

加えて、「独断」も特徴だ。例えば、喫茶店の開店時、名古屋では「モーニングサービスは絶対必要」といわれても行わなかった。ココイチでは、外食業界の低価格競争の中、一度も値下げをしなかった。「人に頼らないほうがうまくいく」と言い切り、コンサルタントの指導は受けない。それでも壱番屋が成功したのは、宗次氏が、「現場主義」「お客様第一主義」「率先垂範」の3つにこだわったゆえだろう。「経営のヒントはすべて現場にある」とし、社長時代には、一店でも多くの店舗を回り、スタッフの働きぶりを見て改善点を見出し、フィードバックすることを続けた。

■栄え続けることが本質

宗次流の経営の本質は、「経営は"継栄"」という言葉に集約される。継続して栄え続けるのが本当の経営であり、「太く短く」では意味がない。業績より「お客様のために最善を尽くす」ことが、"継栄"につながるのだという。

加えて注目したいのは、経営者としての引き際だ。宗次氏は2002年、53歳の若さで経営から身を引いた。後任は、19歳でアルバイトを始めて以来の叩き上げだった副社長。宗次氏には息子がいるが、自分の道を見つけてほしいと、後継者にすることは考えなかったという。スムーズなバトンパスは、"継栄"のポイントに違いない。

引退後は、2003年に立ち上げたNPO法人で、社会福祉活動や音楽、スポーツ分野への助成などを行っているそうだ。この活動は、地域社会の役に立ち、利益は社会に還元すべきという、宗次氏の経営者としての考え方と通底する。根は、"継栄"の価値観につながっているのだろう。

このほか、「『最初に失敗を重ねる』ほうが商売はうまくいく」「『笑顔』が最大のトラブル防止策になる」など、宗次氏の極意は独特だが本質的で、先の見えない時代にも通用する。仕事への向き合い方やキャリアに悩む方、さらには引退後の人生を考える方にも、参考になるに違いない。

今回の評者 = 前田真織
2020年から情報工場エディター。2008年以降、編集プロダクションにて書籍・雑誌・ウェブ媒体の文字コンテンツの企画・取材・執筆・編集に携わる。島根県浜田市出身。

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