がん検診「今からでも」 がん研有明病院長に聞くコロナ禍による受診控え増に警鐘

新型コロナウイルス感染症の流行も第3波まっただ中。感染流行のさらなる拡大と医療崩壊が危ぶまれる一方、病院の「受診控え」や、健康診断やがん検診の「健診・検診控え」に伴いがんなどの重大な病気発見の遅れが増えるのではないかと懸念されている。日本全国から、がんの検査と治療に患者が訪れる、がん研有明病院の佐野武病院長に、今年に入ってからの受診控えの現状と、その考え得る影響について話を聞いた。

初診の患者、一時期ぱったり途絶える

――新型コロナウイルス感染症の流行拡大から8カ月が過ぎても、いまだ収束がいつになるのか見えてはおりません。この混乱の中、がん検診やがんの治療現場においてはどのような影響がありましたか。

佐野院長 まず言えるのは、医療機関全般で受診患者数が減っていること。病気になる人が減ったのではありません。新型コロナウイルスへの感染を恐れて外出を控えるのと同様に、これまでであればちょっとした症状で来院していた患者さんが病院に行くのを控えるようになったからです。

がん研有明病院は、おなかが痛い、せきが出るといった症状で近所の人が診察に来るような病院ではなく、がんの疑いのある患者さんが紹介状をもって精密検査に訪れたり、がん患者さんが治療を受けたりするために来る特殊な病院です。それでも、通常時であればがんの治療や手術後のフォローアップ、新規の紹介患者さんなどで1日平均1700人くらい外来に来るところ、4~5月の流行初期は1200人近くまで減りました。

感染予防の目的で、多少受診を控えても問題ないような患者さんの来院を調整したというのが主な原因ですが、初診で紹介されてくるがん患者さんも一時期激減してしまいました。

緊急事態宣言を契機に3月から6月にかけて多くの健診施設が休止し、新たにがんと診断される人が少なかったのが、第1の理由です。「不要不急の外出を控えて」と言われれば、検診は減りますし、施設側も考慮せざるをえませんね。通常時、がん研有明病院の健診センターでは1日に100人前後の検査を受け入れていますが、春の3か月半の間は、完全に止めました。

初診のがん患者さんが減ったもう1つの理由は、患者さん自身が多少気になる症状があっても病院に行かずに我慢したことです。新型コロナウイルス感染症の流行初期には、海外でバタバタと人が死んでいくというセンセーショナルな報道も多く、どこで何が起こるかわからない、死にたくないと恐れた人も多かったのではないでしょうか。

緊急事態宣言の解除後、来院者数は徐々に回復傾向にありますが、それでも初診患者数はまだもとには戻っていません。検診施設も再開してがんの発見も増えているはずですが、以前のようにわざわざ遠くから東京の中心まで治療や検査を受けに来る、という人が減っているのではないかと思います。

早期発見こそ、がん治療のポイント

――がん検診の受診者の減少や、検査の先延ばしによって、今後どのような影響が考えられるでしょうか。

佐野院長 早く見つかっていたはずのがんの発見が遅れるケースが増えます。治療できたはずのがんが治療できないレベルまで進行してしまう可能性もあります。日本は他国に比べがんの治療成績が良いのですが、その理由は早期にがんを見つけることができるからです。優れた治療技術があるということももちろんありますが、何よりも早い段階でがんを見つけること。これががん治療ではもっとも重要なポイントです。

その背景には、健康診断やがん検診が普及していることがあげられます。企業での健康診断や、自治体のがん検診などが充実しているため、早期にがんを見つけることができるのです。

また、公的医療保険制度と医療提供体制が充実しているので、ちょっとした症状で受診しても、すぐ胃カメラやCT検査(コンピューター断層撮影を用いたX線検査)といった精密機器での検査が受けられます。こういった日常の診察の中で見つかる早期がんも多いのです。

例えば、胃がんの初期にはがん病巣の中に小さい潰瘍ができることがあります。みぞおちがしくしく痛む、ちょっと食べると良くなるという典型的な胃潰瘍の症状で来院し、検査したら早期のがんが見つかるということは少なくありません。なかなか症状が出にくい肺がんも、初期に軽い肺炎を併発することがあるため、その症状で来院してがん見つかることがあります。こういった「ちょっとした症状での受診」が早期がんの発見につながることは多いのです。

定期健診やちょっとした症状での受診。この2つが、新型コロナウイルス感染症の流行でぱったりと止まってしまいました。この受診控え、検診控えが原因となり、本来であれば見つかっていたはずの早期がんの見逃しにつながるのではないかと心配しています。

健康診断やがん検診には、企業が導入しているものや自治体主催のものなどがありますが、強制性のない自治体主催の健診を受けている人に、特に受診控えが多いようです。

ジョンソン・エンド・ジョンソンの行った直近のアンケート調査によると、今まで検診を受けていた人でも、今年は控えるという人が多い。さらに、来年も受けなくてもいいかなと考えている人が少なくないようです。2020年度は、受診率が例年に比べ30%以上低下するのではないでしょうか。

検診ががん発見のきっかけになるといっても、1回きりでは大多数の受診者にがんはありません。そのため今年1年くらい検査をしなくてもいいか、来年も受けなくても大丈夫じゃないかと考えてしまうのだと思います。でも、この1年検査を受けなかっただけで、がんが見過ごされる人は必ず一定数います。他の病気であれば、自然に治癒することもありますが、がんは放置して治ることはありません。今年見つけていれば、内視鏡や小さな手術でとることができたのに、1年経てばその分大きな手術が必要になったり、抗がん剤が必要になったり。場合によってはもう手遅れということもあり得るのです。

がんの中には、初期の胃がんのようにゆっくりと成長するものもあれば、膵臓(すいぞう)がんのように短期間で急激に進行するものもあります。そういった進行の早いがんは、半年程度の発見の遅れであればまだ治療可能かもしれませんが、1年発見が遅れると命取りになることも十分あり得ます。

恐れてほしい、がんを見落とすリスク

――特に積極的にがん検診を受けるべきなのはどのような人でしょうか。

佐野院長 ほとんどのがんは、年齢が上がるにつれ発生率は高くなるので、40歳以上の方は検診を受ける価値があると思います。とくに、日本の5大がんと呼ばれる胃がん、肺がん、乳がん、大腸がん、子宮がんは、どの年代に多いか、どういう検査をすれば発見されやすく、段階によってどういう治療を行えばいいのかが科学的に証明されていて、そのエビデンスに基づき、該当する年齢の方には自治体から検診の知らせが届くようになっています。せっかく通知が届いているのに受診しない人が多いのは残念です。

ただ、子宮頸(けい)がん検診はもっと早い段階から受けていいと思います。このがんはヒトパピロマウイルス(HPV)が発症の原因にあり、若い女性でも発症する可能性があります。ワクチンがあるのですが、いま日本では接種の推奨が控えられているので予防ができません。そのため、子宮頸がん検診は20代から受けていいのではないでしょうか。

現場での経験からいえるのですが、毎年検診を受けていたのに会社をやめてから受けなくなったという人に数年後に進行したがんが見つかることがしばしばあります。今後、コロナの影響で検診を受けなくなってしまったという人が増えて、進行がんの発見が増えてくるという事態は何としても避けたいです。今年検診を控えた人は、来年でいいかと先延ばしにするのではなく、今からでも受診することをお薦めします。

――受診控えや検診控えの背景には、医療機関で新型コロナウイルスに感染することへの恐れがあると思うのですが、医療機関での対策はいかがでしょうか。

佐野院長 4~5月の段階では、新型コロナウイルスがどういうものか、感染経路も症状もまだ十分わかっていなかったので、感染のリスクを極力避ける必要がありました。でも、マスクの着用、手指衛生やソーシャルディスタンスの確保などを徹底することで感染のコントロールができることがわかった今、病院に行ったからといって感染することはまずないと思っていいでしょう。どこの病院も検診センターも感染防止対策は徹底して行っています。感染のわずかなリスクを恐れるより、がんを見落とすリスクを考えてください。

佐野武氏 プロフィル

がん研有明病院 病院長。1980年東京大学医学部卒。東京大学医学部附属病院第一外科、静岡県焼津市立総合病院、国立がんセンター中央病院などを経て、2008年よりがん研有明病院勤務。18年より現職。
専門は消化器外科。がん研究会 代表理事・常務理事。日本胃癌学会理事、国際胃癌学会事務局長。世界各国で胃がんの手術を指導している。

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