入試改革で学生と大学を見る目は変わる?

今、大学では高大接続に向けた主要な動きとして入試改革が進行中。2021年1月には初の大学入学共通テストがスタートし、各大学の個別入試でも新しいタイプの取り組みが続々と始まっている。その中身や目的とは? 専門家に解説してもらおう! Text:伊藤敬太郎

Q1 なぜ大学入試改革が必要なの?

これまで行われていた知識偏重型入試では
これからの時代を担う人材を選抜できないから

A1 カギは時代の変化。

今までの大学入試は、センター試験にせよ、私立大学の入試にせよ、「知識の多寡」を測る問題が主流。これに対して、「これからの時代を担う人材に求められるのが暗記力だけでいいのか?」という問題意識が国や社会、企業、教育現場それぞれにあり、それが大学入試改革の原点となっている。「グローバル化やAI化が進み、世の中が変われば、当然求められる人材も変わってくる。それに伴い、社会に人材を送り出す大学の教育も変わってくるし、その入口である入試も変わってくるということですね」と21世紀型教育機構理事の石川一郎氏。

未知の課題の解決やイノベーションには、知識偏重型の人材では対応しきれない。そこで必要になるのが教育改革なのだが、大学教育を変えるためには、その土台を作る小中高の教育改革も同時に必要になる。ただし、特に高校教育は「大学入試があるから」という理由で知識偏重にならざるをえなかった面があった。大学入試改革はその課題にメスを入れる取り組みでもあるのだ。

Q2 大学入試で問われる内容はどう変わる?

思考力や表現力、主体性などを問う内容の
入試問題、選抜方法が増えていく

A2 思考力などを評価。

では、大学入試はどのように変わっていくのだろうか。その方向性を示しているのが文部科学省の定義する「学力の3要素」だ。ここでは「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体性・多様性・協働性」の3つが次代を担う人材に必要な力だとされている。

回答してくれたのは… 石川一郎氏 21 世紀型教育機構 理事。聖ドミニコ学園 カリキュラムマネージャー。前かえつ有明中高校長。著書に『2020 年の大学入試問題』(講談社現代新書)など。

「今までの大学入試は、このうちの『知識・技能』を問うことに偏重していました。そこで、『思考力・判断力・表現力』『主体性・多様性・協働性』の部分をどのように測っていくかということが、大きなテーマとなっています。もちろん基礎となる知識は必要です。しかし、これからの時代、単に『知っている』というだけならAIがあれば十分ということになってしまう。本当に必要なのは知識を土台に、自分の頭でものごとを分析し、考える力であり、考えたことを表現する力であり、主体性をもって多様な人たちと力を合わせて課題に取り組む力なんです。これらの力を測るにはどうしたらいいかということが、入試方法や入試問題を考える際に非常に重要になってきています」(石川氏)

例えば、2021年1月から大学入試センター試験に代わってスタートする大学入学共通テスト。当初予定されていた記述式問題の導入は見直されたものの、複数の情報から事象を分析する問題が出題されるなど、「情報処理能力」を測ることを意識した内容となっている。これなどは、知識だけではなく、思考力・判断力の一部を問うことに踏み込んだ改革だ。

ただし、マークシート方式のペーパーテストで思考力や判断力などを測ることには限界がある。そのため、文部科学大臣は各大学の個別入試でも記述式問題の積極的な出題を求めており、国立大学の2次試験では記述式問題を導入する大学が大半を占めるようになっている。私立大学でも、早稲田大学政治経済学部が2021年度入試から一般選抜で記述式の出題を含む総合問題を採り入れるなど新しい動きが始まった。

また、入試方式で注目なのは総合型選抜(旧AO入試。2021年度入試から名称変更)だ。志望理由書や面談・面接、小論文試験などを通して思考力や主体性を評価することが可能なため、新たに力を入れる大学も増えている。

Q3 思考力や主体性、表現力を問う入試問題って?

日頃から自分でものごとを探究していないと答えられない出題が少しずつ増えている

A3 小論文に注目!

ペーパーテストで思考力や表現力、主体性などを測る場合、注目されるのは小論文試験だ。最近は、今までになかったユニークな出題をする大学も出てきている。

2018年度の早稲田大学スポーツ科学部の小論文問題。これまでの常識から考えると、かなり意表を突いた出題で、教育業界を中心に大きな話題になった。

「今まで小論文は、取り上げられるテーマもある程度決まっていて、それに対して、この立場から答えるならこうという模範解答的なものがあったんです。極端な話、自分の意見がなくても高得点を取ることができた。だから小論文対策の指導は比較的楽だと言われていました。しかし、この早稲田のじゃんけん問題はそのような受験対策が不可能ですよね。まさにその人がもっている創造的思考力を測る問題。日頃から自分でものごとを探究し、思考力を鍛えていないと通用しません」(石川氏)

このじゃんけん問題は、新しいゲームとそれを成立させるための整合性のあるルールを自分で考えて創り出せるかが問われている。これはものづくりにおいて非常に重要な能力。大学側は受験生にその力を求めているというわけだ。

このほか、順天堂大学医学部は毎年1枚の写真や絵を見て思うところを書かせる小論文問題を出題。東京大学や京都大学でも受験生の考え方や思考力を測るユニークな小論文問題を出題している。

なお、このタイプの問題の本家は海外の大学。例えば、ケンブリッジ大学では過去に「あなたならリンゴをどう説明しますか」という問題が出題された。どう解答すればいいのかというところから自分で考え、もっている知識を総動員し、組み合わせて解答する必要がある歯ごたえのある問題だ。「ただし、このような本質的な思考力を問う小論文問題を導入している大学はまだまだ多いとはいえません。出題や採点できる教員が不足しているからです。でも、今後は少しずつ増えていくことになるでしょうね」(石川氏)

Q4 新しいタイプの総合型選抜のねらいって?

学力、思考力など、その大学が学生に求める力を多面的に測ることがねらい

A4 学力も問う。

これまでの「AO(アドミッション・オフィス)入試」は、2021年度入試から「総合型選抜」と呼ばれることになった。また、「推薦入試」は「学校推薦型選抜」、「一般入試」は「一般選抜」という名称になっている。このうち思考力や主体性を測るための入試方法として注目されるのが総合型選抜と学校推薦型選抜だ。

これまでのAO入試は「書類審査や面接が中心で学力試験がない」というのが特徴。そのため、大学によってはAOで入学した学生の学力不足が問題とされることもあった。しかし、総合型選抜について、文部科学省は、出願書類に加えて、大学独自の評価方法(小論文、プレゼンテーション、口頭試問、ペーパーテストなど)、もしくは共通テストの活用を必須とした。つまり、できるだけ学力も測ることになったのだ。これは学校推薦型選抜も同様。選抜方法は大学によってさまざまだが、例えば、京都大学経済学部の特色入試(総合型選抜)では、受験生自身が書いた「学びの設計書」(志望理由書)とともに、共通テストや論文試験も課される。

お茶の水女子大学の新フンボルト入試(総合型選抜)は、文系学科志望者の場合、まずプレゼミナールを受講し、レポートを提出。志望理由書などと合わせて第1次選考を実施。第2次選考では、2日間かけて課題に取り組み、グループディスカッションと面接を行う「図書館入試」を行う。

「これらの総合型選抜は、それぞれの大学や学部のアドミッション・ポリシーに合致する学生を選抜することを目的としています。学ぶ意欲や探究力、思考力、表現力、主体性などを多角的に測るとともに学力も問いますから、受験生にとっては一般選抜以上に大変な内容。それでも挑戦しようという意欲的な受験生は、これからの社会で必要とされる力を意識できているということです」(石川氏)

このようにハードルの高い総合型選抜や学校推薦型選抜を課している大学では、まだまだ一般選抜の定員のほうが多い。しかし、早稲田大学が総合型・学校推薦型の入学者を6割にまで増やすことを明言しているように、今後、その割合は増えていくとみられている。

Q5 結局、大学入学共通テストの記述式問題ってどうなるの?

A5 導入は見送りに。

大学入試センター試験から大学入学共通テストへの移行に当たり、当初目玉の一つとされていたのが、国語と数学の試験の一部に導入されることになっていた記述式問題。しかし、共通テストスタートのほぼ1年前となる2019年12月、50万枚に上る答案について採点ミスを完全になくすことは難しいといった理由から現時点での記述式導入は見送りに。

「かつての共通一次もセンター試験も国公立大学入試の1次試験。共通テストもその役割は同じです。自己採点で2次試験の受験校を決める立て付けになっている以上、自己採点が難しい記述式の導入は無理がありました」(石川氏)

だからといって、共通テストが結局は知識偏重型の試験になってしまったというわけではないので要注意。記述式はなくとも、複数の資料から事象を分析する問題や科目横断的な問題などは予定どおり出題されるだろうから、そこで思考力が問われることになる。知識だけでは対応できない試験になることに変わりはない。

「すでに最後のセンター試験では、共通テストを先取りしたような思考力を問う良問が出題されていましたが、共通テストではその傾向がより明確になってくると思います」(石川氏)

Q6 共通テストへの民間英語検定導入はどうなる?

A6 こちらも見送りに。

記述式問題と並んで、大学入学共通テストで話題になったのが、民間英語検定の導入。英語教育に関しては「読む・聞く・書く・話す」の4技能をバランス良く習得することが課題とされていたが、センター試験の枠組みでは「書く・話す」を測ることが難しかった。そのための改革だったのだが、こちらも見送りに。地域や家庭の経済事情によって受験機会に差が出るというのが導入中止の理由。その結果、共通テストの英語は、リスニングの配点がセンター試験より多くなるものの、「読む・聞く」2技能だけの試験に。

「2024年度からの実施に向けて再検討するとは言っていますが、私は共通テストへの導入は難しいとみています。ただし、4技能が大切なことに変わりはなく、今でも入試に民間英語検定を活用している大学は多数あります。無理に共通テストの枠組みで導入しなくても、各大学が個別に採用すればいい話なんです」(石川氏)

いずれにせよ、4技能を身につけた大学生は増えていきそうだ。

Q7 大学のアドミッション・ポリシーって入試に関係ある?

A7 関係あります。

すべての大学は、アドミッション・ポリシー(AP:入学者の受入れに関する方針)、カリキュラム・ポリシー(CP:教育課程の編成および実施に関する方針)、ディプロマ・ポリシー(DP:卒業の認定に関する方針)の3つのポリシーを定めている。このうち入試に特に関わってくるのは、その大学や学部・学科が求めている人物像を示したAPだ。

小論文や面接がない学力試験のみの一般選抜でAPに沿った選考を行うことは現実的には難しいが、総合型選抜や学校推薦型選抜では、まさにAPに合致する目的意識や意欲、能力をもっているかどうかが問われる。つまり、「選択する入試方式によっては、APは大いに関係がある」というのが、この疑問に対するストレートな回答だ。

「だから、あとは大学側が総合型選抜や学校推薦型選抜で、どれだけAPで掲げていることを多角的に、かつていねいに測っているかがポイントになります」(石川氏)

このような入試では、どれだけ知識の量があったとしても、大学側が求めている思考力や探究力、問題意識などがなければ合格することはできない。つまり、総合型選抜や学校推薦型選抜で受験を考えているなら、志望校を選ぶ段階でAPをしっかり読み込んでおく必要があるということ。偏差値や知名度だけで大学を選ぶのは、この場合特にリスクが高い。

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