ひらめきブックレビュー

星付きシェフを目覚めさせた サイゼリヤ流のチーム力 『なぜ星付きシェフの僕がサイゼリヤでバイトするのか?』

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ミシュランガイドの星付きレストランと、ファミリーレストランのサイゼリヤを比べたら、どちらが「上」か。多くの人が、星付きレストランと答えるだろう。しかしそれは、何を比べているのだろう。例えばサイゼリヤは激安だが、エスカルゴは日本一の美味しさという。水煮を輸入するのではなく、自社生産しているからだ。

星付きシェフが、サイゼリヤで3年間もアルバイトをしているという。その経験を踏まえ、経営や人生の「必勝法」をまとめたのが、本書『なぜ星付きシェフの僕がサイゼリヤでバイトするのか?』だ。著者は、東京・目黒の一ツ星イタリアン「ラッセ」のオーナーシェフ、村山太一氏。イタリアの三ツ星レストラン「ダル・ペスカトーレ」で副料理長まで務めた経歴を持つ。

■フラットな組織と効率追求

村山氏はイタリアから帰国したあと、2011年にラッセをオープンした。しかし、長時間労働が常態化。スタッフは次々辞めていき、売り上げも下がり、ギリギリの経営を強いられていた。目をとめたのが、同じイタリアンで高い生産性を誇るサイゼリヤだ。アルバイトに応募し、店休日や休憩時間を使って働き始めた。驚きの行動力といえる。

働いてみると、サイゼリヤは「理想郷」だったという。彼がはい上がってきた職人の世界は、「背中を見て学べ」が常識で、ろくに仕事を教えられたことがなかった。ところがサイゼリヤは、スタッフにほぼ上下関係がなく、丁寧に仕事を教えてくれる。村山氏は、いつもスタッフを怒鳴ってばかりいた自分の態度を、反省を込めて振り返るのだ。

さらに、徹底した効率の追求にも驚かされた。サイゼリヤは本部に生産性をあげるための部署があり、食器を持つ手や置き場所、歩く速度に至るまで細かく定められている。そして、つねによりよい方法へとアップデートされ続けていた。

■素直に教えを受ける

村山氏は、サイゼリヤをお手本に、ラッセの改革を始める。まず、フラットな組織体制にした。例えば、シェフがすべての料理を味見していたが、腕のあるスタッフにも任せるようにした。自身も手が空けば、買い出しやトイレ掃除までする。チームのコミュニケーションは密になり、スタッフは全体最適を考えて動けるようになった。

また、業務の効率化も進めた。テーブルクロスのアイロンがけは、しわのばしスプレーに変更。グラスの置き場所を見直して動線も効率化するなど地道な改善を重ねた結果、2019年の生産性は前年比約3.7倍になったという。

ファミレスを「下」に見る、私自身の固定観念に気付かされた。ラッセの改革は、思考停止に陥らず、進化し続けたからこそ成功した。また村山氏は、「バカは吹っ切れちゃえば強み」という。自尊心を捨てて素直になるのは、面白くないし辛いこともあるはずだ。それでも彼は、教えを受ける心を持って、間違っていると気づいたらすぐに改める。

新たなスキルの習得など、ビジネスシーンでも学び続けることの大切さが見直されている。本書は、学ぶ姿勢、学ぶ楽しさを再認識させてくれるだろう。

今回の評者=前田真織
2020年から情報工場エディター。2008年以降、編集プロダクションにて書籍・雑誌・ウェブ媒体の文字コンテンツの企画・取材・執筆・編集に携わる。島根県浜田市出身。

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