採用の物差しが必須に 就活ルール形骸化とコロナ禍でキャリアセンター座談会(上)

就職活動ルールの廃止やコロナ禍によって、採用・就職活動は激変している。それに対し、各大学のキャリアセンターはどう対応しているのか。また、就職後に活躍できる学生を見分けるためにはどうしたらいいのか。個性豊かな3大学のキャリアセンターが、オンライン座談会で本音を語った。(Text:白谷輝英)

座談会参加者
学習院大学キャリアセンター担当次長 淡野健氏、芝浦工業大学就職・キャリア支援部次長 三船毅明氏、立命館アジア太平洋大学キャリア・オフィス 滝上博章氏、ファシリテーターは人材研究所代表取締役社長 曽和利光氏

就活ルールの廃止による対応変更はさほどない

曽和(ファシリテーター) 経団連が2018年9月、会員企業の面接解禁日などを定めた「就活ルール」を廃止すると発表しましたね。

曽和利光氏(人材研究所代表取締役社長) リクルートで人事コンサルタントや採用グループのゼネラルマネジャーなどを経験。そ の後、ライフネット生命やオープンハウスで人事部門責任者を務める。2011 年、人事・採用コンサルティングや教育研修などを手がける人材研究所を設立した。

淡野(学習院大学) 17~20年春入社組には、3月に企業説明会開始、6月に選考開始という指針が示されていました。ところが、6月より早い段階で選考を始めている企業はたくさんありましたし、3月以前に「ワンデーインターンシップ」「業界研究」などの名目で実質的な説明会を行っている企業も存在していました。つまり、就活ルールはすでに形骸化していたのです。

今回の件は、もともと守られていなかったルールを、実態に合わせて経団連の元では廃止しただけだと言えます。

三船(芝浦工業大学) これはあまり知られていませんが、企業には今も、ルールに則って就職活動をすべしという通達がきているのですよ。従来は、1、経団連による就活ルールの策定 2、大学関係者などが集まる「就職問題懇談会」の申し合わせ 3、関係省庁からの経済団体などへの遵守の要請という流れで就活ルールの遵守が求められてきましたが、今回は1が外れただけ。ルール遵守を要請する文書は、今でも各企業に届いています。

曽和 つまり、経団連は就活ルールの廃止を宣言したけれど、大学側からのルール遵守の要請は存在しているということですね。

三船 一応、そうなっています。ただし、大きく報道されたので、ほとんどの企業人は就活ルールが完全になくなったと思っています。

曽和 そうなると、各大学はルールと現実との間で板挟みになりますね。皆さまはどう対応しているのですか?

淡野 これまで学生には、「建前では会社説明会が3月、選考が6月開始とされているが、実態は違うので早めの準備を心がけるべし」と言ってきました。今後も、同じことを伝えると思います。

三船 われわれも学生が不利にならないよう、「3年生の夏ごろにワンデーインターンシップなどが行われるから、就職活動の準備を始めて」など、実態に合わせた指導をしています。今の状況は学生にとって不透明で、就職活動もやりづらいだろうと感じますね。

滝上(立命館アジア太平洋大学。以下「APU」) 本学も、企業の動きに合わせて対応を変えるという点では皆さまと同じですね。

滝上博章氏(立命館アジア太平洋大学キャリア・オフィス) 立命館アジア太平洋大学は、大分県別府市にある私立大学。アジア太平洋学部と国際経営学部を擁する。教員や学生の約半数が外国籍で、新入生の多くが学生寮で外国人留学生と寝食を共にするなど、多文化適応能力を鍛えられる環境だ。

本学では、3年生の4月に就職活動のキックオフガイダンスを行います。学生の4割以上は大学で4年間を過ごして学位を取得する正規入学の外国人留学生(国際学生)なのですが、「日本には新卒一括採用という仕組みがあり、3月に説明会、6月に面接が始まる。ただし、このルールは守られていない」と説明すると、彼らは一様に不思議そうな顔をします(笑)。

曽和 それは恥ずかしいですね。

滝上 本学の学生は多様です。勉強や部活に励む学生もいれば、アルバイトにのめり込む学生もいます。国際学生が多く、学生の国籍も文化的背景もバラバラ。さらに本学では、9月卒業の学生が毎年500人以上います。彼らが一律のルールで就職活動をするのは難しい。そこで私たちは、通年採用のメリットについて社会に発信する必要があると考えています。

曽和 今後、通年採用は重要な論点になりそうですね。

淡野 そうですね。僕はこれから、「ハイブリッド採用」の時代が来ると思っています。例えば、9月卒の優秀な学生が、4月入社までの半年間を無駄にするのはもったいない。新卒一括採用だけでなく、通年採用を組み合せた採用が広がるといいですね。また、アナログとデジタル、オンラインとオフライン、ジョブ型とメンバーシップ型など、いろいろなハイブリッドによって採用を行うべきだと考えます。

三船 私もそう思います。ただ、通年採用を行うためには、企業にしっかりした「採用の物差し」が必要かもしれません。新卒一括採用の場合は応募者同士を比較できますが、通年採用の場合は、求める能力や人物像などで絶対的な基準がないと採用できませんから。

就活のオンライン化で地方大学の不利が解消

曽和 2020年は新型コロナウイルスの感染拡大で、就活生や大学の動きにも大きな影響が出たと思います。

滝上 もちろん混乱もありましたが、本学についてはプラスの影響も大きかったですね。

われわれのキャンパスは大分県別府市の山の上にあります。一方、卒業生の約6割は首都圏の企業に就職します。ですからこれまで学生は、説明会や面接に参加するごとに上京しなければなりませんでした。交通費や移動時間の負担は大きかったですね。ところが、コロナ禍で説明会や面談がオンライン開催となったために、地理上の不利がなくなりました。地方大学にとってはチャンス。学生には、「今は東京も別府の山の上も関係ない」と背中を押しています。

曽和 就活がオンライン化したことで地方大学の不利が解消されたのですね。 ところで、就活ルールはもともと、学業を阻害しないために定められたものです。そういう意味では、就職活動がオンライン化されたことで、学業などへの悪影響は少なくなっていますか?

滝上 そうですね。上京などに必要な時間が短縮された分、学生は学業などに集中できるようになっています。ただし、世の中には「肌感覚」でわかることも少なくありません。企業と学生が一度も対面しないまま就職先が決まって本当に大丈夫かという思いは、大学にも学生にもあります。

曽和 なるほど。私も、本当に内定先の企業に進んでいいのかと悩む学生が多いと感じます。これが早期退職などにつながらないかという危惧はありますね。

三船 学生同士、あるいは、就職・キャリア支援部と学生の「アナログな交流」が減っているのも指摘しておきたいです。例えばコロナ以前なら、就職課の前でうろうろしている学生に私たちが声をかけましたし、授業やサークルなどで一緒になった学生同士が情報交換する機会もありましたが、講義がリモートに切り替わった後は激減しています。その結果、学生が一人で考え込むことが増え、報道などに大きく影響を受けるという印象を受けています。

三船毅明氏(芝浦工業大学就職・キャリア支援部次長) 芝浦工業大学は、東京都港区に本部を置く私立大学。工学部、システム理工学部、デザイン工学部、建築学部がある。2020 年3 月学部卒業生(1680 人)の就職率は97.6%で、各種就職率ランキングの上位常連校だ。

また、デジタル化が進むことで「偶然の出会い」も減っているのではないでしょうか。以前なら、求人票をパラパラめくったり新聞記事を眺めたりしているうちに、興味をもつ企業・業界と突然巡り会うことがありました。ところが今は、自分の見たいニュースや求人だけが送られてきます。選択肢の幅が広がりにくいのです。

「水面下の学生」に向けきめ細やかな対応

曽和 就職活動では自分の可能性を広げる必要があるのに、学生の視野の狭まりは心配ですね。

淡野 本学でも同じ現象が起きています。アナログでリアルな交流は、コロナ以降で激減しました。学生も、情報不足と、就活生の不安をあおるようなマスコミ報道でストレスを抱えています。

淡野健氏(学習院大学キャリアセンター担当次長) 学習院大学は、東京都豊島区にある私立総合大学で、5 学部17 学科を擁する。2019 年には企業の採用担当やインターンシップ担当向けの説明会を開くなど、多彩な就職活動支援を展開していることで知られている。

困るのは、キャリアセンターにも顔を出さず、何も行動していない「水面下にいる学生」への対応です。三船さんがおっしゃったように、キャリアセンターの周りで悩んでいる学生なら声をかけられますが、オンラインだけの環境ではそれができません。そこで私たちは、6月第2週の段階で、万全な感染対策を打ちながらリアルな就活支援を再開しました。これは、大きな効果がありましたね。

曽和 学習院大学ではリスクをとって就活支援の再開に踏み切ったのですね。ただこのご時世、「水面下の学生」への対策は難しい課題です。芝浦工業大学とAPUではどう対応していますか?

三船 本学は進路決定届を出していない学生に対し、直接電話するなどの施策を実施しています。学生数がそれほど多くないため、「ローラー作戦」が可能なのです。

滝上 本学はコロナ以前から、オンラインでできることはオンラインでやることにしていました。ですから、学生の多くはオンラインへのリテラシーを兼ね備えていますし、場所を選ばないオンラインのコミュニケーションを好む傾向もあります。また、海外、もしくは県外から本学を選んで入学してきた学生が95%を占めるため、自分から情報を取りに行こうと積極的に行動する人が多いのも事実です。そのため、「水面下の学生」への心配は、ほかの大学に比べると多少小さいかもしれません。

淡野 本学は7月から、21年卒業者向けに、初の学内オンライン説明会を実施。約50社が参加し、キャリアセンター側が「A社は○年連続で成長中」「B社は○○分野でシェアトップ」など、各社の特徴をピックアップして紹介しました。学生の参加者はかなり多く、企業側は驚いていましたね。また、学生も知らない業界、知らない企業に触れて新たな発見があったようですし、この機会に内定を得た人もいました。こうした取り組みは、デジタル化で情報のたこつぼ化に陥る危険性を減らす一助になるかもしれません。

曽和 コロナ禍で、学生の動きに変化はありましたか?

三船 「内定切り」に関する問い合わせが増えています。内定切りの実際の件数は多くないのですが、学生はマスコミ報道を見て不安になるのでしょう。また、内定先企業と学生が十分にコミュニケーションできていないことも、不安を増大させていると思います。

淡野 学力低下の不安もあります。パワーポイントの説明だけのオンライン授業を受け、レポートを書いて単位がもらえるというスタイルは、本当の学びと言えるでしょうか。現在の状況が長期化するなら、学力以外にも失われるものは小さくないとみています。

曽和 わかります。「やりきる力」やコミュニケーション能力などは、オンラインではなかなか学べませんからね。そういえば、寮生活をする学生が多いAPUでは、学生寮はどうなっていますか?

滝上 もともと寮生活をしていた学生の多くは、従来どおり寮に住んでいます。クラスターが発生すると大変なので、対策には気を使っていますが。本学では、多国籍の学生が集まり、肌感覚でグローバルコミュニケーション能力を伸ばすことを目指しているので、コロナ禍で学生同士のコミュニケーションが希薄になることは深刻な課題ですね。

曽和 オンラインとオフラインの使い分け、オンラインへの取り組みについては、各大学とも検討中の課題だと言えそうですね。

(次回に続きます)

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