断捨離しのぐ「がらーん」とした家 震災で考え一新
4人家族のシンプルライフ
ゆるりさんが住むのは仙台市の一軒家。玄関を入ってすぐの台所は、笑いが出るほどモノがない。水切りかごや調味料類……。キッチンには当たり前にあるものがない。きれいを通り越し「がらーん」の方が正確だ。
「収納棚に詰め込んでいる?」。疑って扉を開けてみると、炊飯器や電子レンジがきちんと並んでいるがモノは少ない。それどころか、空の収納棚がいくつもある。ゆるりさんは、極限までモノを少なくして暮らす"持たざる人"なのだ。
たとえば、調理用のボウル。大中小と複数持つ人も多いが、ゆるり家には一つもない。食材をあえる必要があるときは、丼を使う。「もし丼が小さかったら、鍋を使います」。なきゃ困るという常識を捨てれば、必要なモノは多くない。
バスルームにはバスタオルもマットもない。入浴後「浴室でフェースタオルで足の裏までふけば、脱衣所は汚れません」。靴下は3足、肌着は3着、ハンカチは2枚。「たたむのが面倒」なので、たんすはない。
現在ゆるりさんが住む家は、2012年2月の完成だ。それまで住んでいた築60年超の自宅が東日本大震災で被災し、建て直した。それまでの自宅は「まさに汚屋敷(おやしき)」(ゆるりさん)。戦火を逃れた曽祖母らの着物や家具類が家を占領していた。
片付けに目覚めたきっかけは、高校時代の失恋だ。彼との思い出の品を処分したら「快感を覚えた」。その時は、モノを捨てることに抵抗がある母(54)や祖母(81)の意向もあって不用品の処分は進まなかったが、震災で状況が変わった。避難所やアパート暮らしを経て「モノは多くいらない」でまとまったのだ。
「すごく必要ですごく好き」という条件を満たさない限り、新しいモノを買わない。ドイツ製フライパンが約2万円など、買うと決めたモノへの出費は惜しまないが「無駄買いしない」ので、出費が抑えられる。
ゆるりさんの家が話題となったのはブログが発端。友人が「モノがなさ過ぎる」と気味悪がるので、もっと驚かせようと昨年、開設した。その何もないぶりが話題を呼び、書籍化が決定。13年2月末にエッセー漫画「わたしのウチには、なんにもない。」(KADOKAWA)が、8月に2巻が発売された。累計発行部数は10万部。12月に3冊目「なんにもない部屋の暮らしかた」も出た。
ゆるりさんに聞いてみた。「片付けが苦手な人へのアドバイスは?」。即座に返ってきた答えは「そういう人こそモノを減らすべきです」。暮らしの中で、雑貨や花を美しく飾れるのは「そこに積もるほこりにまで目が届き、掃除ができるマメな人だけ」。「いかに楽して掃除するかを考えれば、自然にモノは減ります」
今年の年末は、この言葉を胸に刻んで大掃除に臨んでみてはどうだろう。
(松本史)
〔日経MJ2013年12月25日付〕
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