ひらめきブックレビュー

職場のデータ分析で見える 働き方の「勝ちパターン」 『職場の科学』

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多くの企業がリモートワークなどの新しい働き方を導入した。この機会を利用して、働き方改革を進めたいと考える個人や企業は多い。とは言え、そもそもどこから変えていけば良いのかわからないというのが実情だろう。

働き方改革へのヒントを与えてくれるのが本書『職場の科学』だ。かねてより膨大な職場データを分析し、フレキシブルな働き方を模索している日本マイクロソフトの取り組みをベースに、データから明らかになった職場の真実や働き方の知見を28の「職場の科学」として解説している。著者は300以上の企業や自治体で働き方改革の支援を行ってきた業務改善士である沢渡あまね氏だ。

■望ましい「部下の数」とは

まず驚くのが日本マイクロソフトの「働き方の見える化」の徹底ぶりだ。個人の行動、働き方をデータ分析する「マイアナリティクス」と、部門、チームの動きを分析する「ワークプレイスアナリティクス」という自社システムを使って、仕事ぶりに関するあらゆるデータを集めている。個人レベルでは「何本のメールを出したか」「その週に交流した人数や相手」、部門レベルでは「勤務時間外のメール作成時間」「チームとしての平均会議時間」といった詳細な内容だ。収集したデータを分析し、個人やチームの特徴をつかみ、効果的な仕事ぶり=勝ちパターンを見いだしている。

例えば、マネージャー1人当たりの最適な部下の数。「部下の数」と「上司がコミュニケーションに使っている時間」の関係を調べたところ、面白い結果が出たそうだ。それは、部下を1人持つとコミュニケーション時間が週7時間増えるが、部下が5人までならトータル時間はさほど変わらないというもの。これを受けて、部下が1人いるリーダーAはその部下を、3人の部下をもつリーダーBに回す。こうしてAには個人プレイヤーとして活躍してもらい、トータルで効率化を目指す組織編成などが検討されている。

もちろんこうした数字は、どの企業にも当てはまるものではない。大事なのは得られたデータを「部分の改善」ではなく、時代や自分たちの状況に適した独自の勝ちパターンにつなげることだと著者は言う。日本マイクロソフトでは、分析結果を基にどのような仮説を立て行動するかは、個人にゆだねられている。

そんな同社が、組織としての勝ちパターンを「コラボレーションを促す」ことに見いだしている点も興味深い。多様な人材とのコラボレーションの重要性は昨今強調されることが多いが、かけ声だけでは進まないものだ。評価基準に個人の業績のみならず、「他者の成功への貢献」「他者の知見の活用」を盛り込んでいる同社の制度には、組織としての改革への本気度がうかがえる。

他にも、「上司の人脈の広さが部下の満足度を上げる」など意外なデータが並んでいる。効率的に仕事を進めたい個人のビジネスパーソンやマネージャーはもちろん、人事に関わるものにとっても、データドリブンな働き方改革には発見があるだろう。

今回の評者 = 川上瞳
情報工場エディター。大手コンサルティングファームの人事担当を経て、書評ライターとして活動中。臨床心理士、公認心理師でもある。カリフォルニア州立大学卒。

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