バンダイグループから出資 所属アーティスト40組に
バンダイナムコアーツ 副社長 井上俊次氏(20)
川城氏(写真左)の言葉が、バンダイナムコグループ入りのきっかけになった
市場規模が膨らんだ「アニメソング(アニソン)」ビジネスの立役者の一人がバンダイナムコアーツの井上俊次副社長です。1970年代にロックバンド「レイジー」で一世を風靡しました。井上氏の「仕事人秘録」の第20回では、バンダイビジュアル(現バンダイナムコアーツ)からの出資を語ります。
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「今度オフィスに行っていい?」。電話相手はキャラクターグッズなどを手がける会社の社長さんでした。訪問は土曜日。創業直後の狭いオフィスを見渡して「まだ6人増やせるね。うちが出資するから一緒にやろうよ」。
会社のメンバーに意見を聞きました。当時のランティスはできたてのベンチャーです。傘下入りで会社がどうなってしまうのか、よくわからずに不安が勝りました。本当に有り難いお話でしたが、独力でお金をかき集め、資本金を1000万円から3000万円に増やす道を選びました。
「まずいな」。別の不安もありました。当時、その会社はバンダイビジュアルと共同で事業に取り組んでいました。そんな中でお断りすると、バンダイビジュアルとの関係が悪くならないかと心配でした。
不安を払拭するため、バンダイビジュアルを訪問しました。その場に現れたのが後に社長に就任する川城和実さん。「ご意見をお伺いしたいのですが」と事情を説明すると川城さんはにっこり。「それはね、井上さんの志を大事に判断してもらって大丈夫ですよ」
数年後、ランティスも事業拡大の転機を迎えていました。自社のレコーディングスタジオを造るため約1億円借り入れましたが、社員にはもっとアニメ作品に投資したいという思いがありました。このまま単独路線を続けても資金不足に陥るのは明らかです。上場も選択肢にありましたが、株式公開で苦労している会社も知っていました。
再びバンダイビジュアルに川城さんをたずねました。「志を大事に」という言葉が心に残っていたからです。バンダイビジュアルも音楽事業への取り組みを模索していたころでした。この時は会社のメンバーの意見も一致していました。2006年、51%の出資を受けました。
バンダイビジュアル傘下で、ランティスは大人の階段を上りました。しっかりしたルールの下で社員を尊重する会社に成長できました。それまでルールがあるようでない状態でしたから。社員には良い決断だったのではないでしょうか。