マーケター・オブ・ザ・イヤー2020

革新的マーケターを選出する「マーケター・オブ・ザ・イヤー2020」。2人目は、『鬼滅の刃』ブームの火付け役となったアニメ化の仕掛け人、アニプレックス(東京・千代田)の高橋祐馬氏だ。その裏側には妥協を許さないクリエイティブ制作と綿密なプロモーション戦略があった。

アニプレックスの高橋祐馬プロデューサー。2004年アニプレックス入社。入社後少しして宣伝部に配属になり、11年間、宣伝プロデューサーとして『化物語』『Fate/Zero』『アイドルマスター』などを担当。17年から制作部に異動し、プロデューサーとして『鬼滅の刃』『はたらく細胞』『君の膵臓をたべたい』などを手掛ける
アニプレックスの高橋祐馬プロデューサー。2004年アニプレックス入社。入社後少しして宣伝部に配属になり、11年間、宣伝プロデューサーとして『化物語』『Fate/Zero』『アイドルマスター』などを担当。17年から制作部に異動し、プロデューサーとして『鬼滅の刃』『はたらく細胞』『君の膵臓をたべたい』などを手掛ける

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 『鬼滅の刃』は、「週刊少年ジャンプ」(集英社)に2016年2月から20年5月まで連載されていた吾峠呼世晴氏による作品。大正時代の日本を舞台に、人間を襲う鬼と鬼を斬る組織「鬼殺隊」との戦いを描いた物語だ。鬼に家族を惨殺された心優しい主人公・竈門炭治郎が、鬼へと変異した妹・襧豆子を人間に戻すため、鬼殺隊の剣士となって仲間と共に戦っていく。

 20年10月2日発売の単行本22巻で、電子版を含めたシリーズ累計発行部数は1億部を突破。外食・食品・衣類・雑貨などのコラボレーション商品が完売したり、コラボ先企業の企画として過去最高売上を記録したりするなど、連載が終了した今でもビジネス面で大きく経済圏を広げている。社会現象となり、驚くべき経済効果を生んでいる鬼滅の刃だが、人気を大きく拡大させる契機となったのがアニメ化だ。アニメ放送開始時の19年4月に350万部だった累計発行部数が、放送終了時には3倍超の1200万部まで拡大。その後も右肩上がりで部数が急伸した。そのアニメ化の仕掛け人となったのが、プロデューサーとして活躍したアニプレックス 企画制作第1グループ 企画制作部4課 課長の高橋祐馬氏だ。

王道さと新鋭さを備えた物語が魅力

 高橋氏は、連載開始当初から原作のファンだったという。「漫画自体が非常に面白い。王道で普遍的な面白さだけでなく、敵である鬼にも救われたいと願う悲しい過去があり、『血鬼術』と呼ばれる鬼の異能力や、鬼を倒すための独特な呼吸法などは、他のどの作品でも見たことがない。王道さと新鋭さが濃密に重なり合っているのが魅力的だと思った」(高橋氏)。

 連載が始まって間もなく、高橋氏は集英社にアニメ化を打診。その後、座組を検討する中で、制作会社をufotable(ユーフォーテーブル)に決めたという。「過去十数年制作を共にしてきて、物語の明暗や夜のシーン、戦闘の描写を得意とするufotableがつくる鬼滅の刃を一人のファンとして見てみたかった」と高橋氏は言う。

 ufotableは、これまで『活撃 刀剣乱舞』や「Fate」シリーズなどのヒット作を手掛けてきアニメ制作会社だ。ほとんどのシーンが手書きで制作される日本のアニメでは、どの部分に力を入れてどこを省略するかを考えながらつくられるという。しかし、「ufotableは省略するという選択肢があっても、それを一切しない。テレビや映画の区別をせず、常に全力で、絵として美しく格好よければどんな労もいとわない」(高橋氏)。クリエイティブに懸ける姿勢と技術を高く評価している。

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