不確かな世界を見える化 ビリギャルが学ぶデータの力

教育の分野にデータを生かす

――西内さんから見て、この分野にはもっと統計の考え方を入れた方がいいのに、と思うところはいっぱいある?

「たくさんありますね」

――例えばどの分野?

「教育ですね」

西内さんの著書を手にする小林さやかさん

――ですよね! ビリギャルってよく奇跡だとか、もともと頭良かったんでしょって言われるんですけど、あれは奇跡じゃなくて、ちゃんと根拠があるものなんだということを言いたくて大学院で教育を学ぼうと思ったんです。教育について学べば学ぶほど、全然データとか根拠に基づいた教育がなされてなくて。そういうところを変えたくて、米国の大学院へ行こうと思っているんです。米国はデータを使った教育が進んでいるイメージですけど、プロの目から見るとどうですか。

「例えばノーベル賞を受賞したジェームズ・ヘックマン米シカゴ大教授による「ペリー就学前プロジェクト」によって、米国においては幼児教育プログラムを強化しようという政策につながっていきました。この研究は簡単にいうと、質の高い幼児教育を受けた子供と受けなかった子供を追跡調査し、前者の方が40歳時点の学歴や所得が高かったことを示したものです」

「この政策の是非は様々な議論があるようですが、それまで効果が不明確で、イデオロギー的な議論になっていたところにきちんとした根拠をつきつけたところが、前進だったかなと思います」

「ただ、米国の教育の予算は自治体で賄われるという構造的な問題もあります。つまりお金持ちエリアでは潤沢な予算があって、先進的なプログラムをやろうということになる一方、貧困層の多いエリアはそもそも予算がないからできない、となって教育格差が増強されてしまうんです。もともと格差が少ない日本は学力が高いと言われており、それはそれでいい面がある気がします」

――そっか、偏った見方にならないためにも統計学って必要なのかもしれない。私が大学院で専攻している学習科学はデータが大事だっていうのはわかっているつもりだったけど、まだ全然足りてない。勉強が楽しくないって思わせてしまう日本の教育を変えたい、そのためにはビリギャルのモデルとしての意見だけではなくて、根拠のある理論を持てるようにならないとって今日改めて思いました。

「私はデータというのは、人間の『観察』や『経験』を拡張するものだと考えています。例えば、年間約10万人が医療ミスによって亡くなっているデータを、米国医学研究所が報告書の中で示したんですね。これに基づき2004年、『100000 lives』と呼ばれる医療の質改善キャンペーンが始まりました。手洗いなどの院内感染対策や、投薬内容の確認など、ごく当たり前の目標を多くの病院で徹底した結果、入院死亡者数を大幅に減らすことができました」

「データの中には、一人の人間が認識できる範囲を超えて、『良い判断』に繋がるヒントが隠されています。教育界においても、いくら優秀な先生や官僚でも、国や地域の全学生がどのような状態にあるかを観察したり、経験したりすることはできませんよね。特に恵まれた立場の人間ほど、意識していないと格差の存在を見たり触れたりする機会は少ないですから、そういった意味でも、教育の世界においてデータをうまく使うことがとても重要だと、私は思います」

(文・構成 安田亜紀代)

西内啓さん
1981年生まれ。東京大学医学部卒。東京大学助教、大学病院医療情報ネットワーク研究センター副センター長などを経て、ビッグデータやデータサイエンスがビジネス界で注目を集めるようになった2010年に独立。14年にデータ分析用のソフトウェアを開発して売るデータビークルを立ち上げ、代表取締役CPO(最高製品責任者)に就任。著書に『統計学が最強の学問である』(ダイヤモンド社)など。
小林さやかさん
1988年生まれ。「学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶応大学に現役合格した話」(坪田信貴著、KADOKAWA)の主人公であるビリギャル本人。中学時代は素行不良で何度も停学になり学校の校長に「人間のクズ」と呼ばれ、高2の夏には小学4年レベルの学力だった。塾講師・坪田信貴氏と出会って1年半で偏差値を40上げ、慶応義塾大学に現役で合格。現在は講演、学生や親向けのイベントやセミナーの企画運営などで活動中。2019年3月に初の著書「キラッキラの君になるために ビリギャル真実の物語」(マガジンハウス)を出版。19年4月からは聖心女子大学大学院で教育学を研究している。
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