職業を学びたいなら読むべし オススメの漫画20冊
仕事をテーマにしたマンガでこの1年を振り返り、新たな展望を思い描いてはいかがだろう。手軽に読めて働くことについて改めて考えるきっかけにもなる。専門家にお薦めを選んでもらった。
熱血女性マンガ編集者の成長
出版業界の内幕を描く漫画は比較的多い。だがこの作品は主役の編集者にとどまらず、漫画家や出版社の営業社員、書店員など、漫画の制作から販売に至る、すべての仕事を丁寧かつドラマチックに描き、他と一線を画す。インターネットの交流サイト(SNS)を通じた編集者・漫画家と読者との対話のあり方や、過去の作品の電子書籍化を巡る曲折など、出版業界の最も旬な話題も作中にしっかりとちりばめられている。
「編集者や宣伝マン、書店営業など出版社の裏方たちの奮闘を描く。仕事に対する姿勢がまっすぐに前向きで、正面から胸を打たれる熱血作」(関口靖彦さん)。「暑苦しいまでの仕事への情熱がビシビシ伝わる。体育会系の女性編集者を主人公としたところが大ヒットの要因」(橋本博さん)(1)松田奈緒子(2)小学館(3)各580円
出世の階段駆け上がる立志伝
大規模な企業の合併・買収や社内抗争など、現実に起きそうな仕事上の問題や失敗、挽回の様子などが描かれる。漫画の主人公なのに社長、会長に就任すると現実にニュースとして報道されたほど社会的な注目度が高い。
「経営者を通して日本の経済発展史を描いている」(小野耕世さん)、「サラリーマンの悲喜こもごもを派閥争いや時事ネタを踏まえ、リアルに描いている」(栗山典久さん)(1)弘兼憲史(2)講談社(3)570~580円(注・「島耕作全集」は課長編1万4700円、部長編1万2600円、取締役・常務・専務編1万4700円。14年1月から会長編も刊行予定)
飛行士の過酷な訓練リアルに
訓練の様子などがリアルに描かれると共に、過酷な訓練を乗り越えて心身ともに成長を遂げる兄と、その後に大きな挫折を経験しつつも再起を図る弟、そして2人を取り巻く様々な登場人物の姿を通して、憧れの対象である宇宙飛行士の職業としての実相が浮かび上がる。
「名言の宝庫といわれるほど、作中の随所に読者を引きつけるセリフがちりばめられている」(福士真人さん)、「宇宙飛行士になる過程が丁寧に描かれている」(渡辺博久さん)(1)小山宙哉(2)講談社(3)580~600円
中継ぎ投手、頭の中は年俸でいっぱい
ゲーム制作者の理想と情熱
日本酒造りに打ち込む女性描く
危険と隣り合わせ、実体験生きる
仕事にまい進する女性編集者
アップル創業者の伝記
常に全力、中学校教師
女性マンガ家の草分けという上田としこ氏が主人公。知られざる漫画史を学ぶこともできる。(1)村上もとか(2)小学館(3)580円
サッカーがテーマで、主人公は監督。格上チームに勝つための采配などが緻密に描かれる。(1)ツジトモ(画)、綱本将也(作)(2)講談社(3)580~590円
高齢者介護に従事する人たちや、介護を受ける高齢者たちの思いや生きざまを描く。(1)くさか里樹(2)講談社(3)540~580円
獣医を目指す学生たちを中心にした物語。(1)佐々木倫子(2)白泉社(3)各880円
昭和時代の国鉄を舞台に、鉄道マンの生きざまが描かれる。(1)池田邦彦(2)講談社(3)570~620円
産業やスポーツなど様々な分野の知られざる天才を描く。(1)森田信吾(2)集英社(3)540~590円(表題作は絶版。「栄光なき天才たち2011」「同2010」が刊行中)
2人組のマンガ家が成功の階段を駆け上がる。(1)小畑健(画)、大場つぐみ(原作)(2)集英社(3)各420円
天才ハッカーと投資家の2人が出会い、新たな仕事を創造する。(1)さだやす(著)、深見真(ストーリー協力)(2)小学館(3)各580円
ある区役所の保健福祉課を舞台にした公務員たちの仕事ぶり。(1)高津カリノ(2)スクウェア・エニックス(3)各500円
コーヒーの専門職バリスタが主人公。(1)むろなが供未、花形怜(原案・原作)(2)芳文社(3)各620円
表の見方 数字は選者の評価を点数に換算。(1)著者など(2)出版元(3)税込み価格(出版元の価格表示が税抜きの場合は1.05を乗じ、小数点以下を四捨五入)
■ルーツは戦前、社会変化映す
「仕事マンガ」は年々拡大している。そのルーツは意外に古い。説はいろいろあるが、「遡れば、戦前の『のらくろ』(田河水泡)も軍隊で出世を重ねる一種の仕事マンガ」(宝島社の薗部真一さん)という。
戦後の一時期はSFやファンタジーが人気を博して空白の時期となる。だが1970年代に入ると、医師を描いた「ブラック・ジャック」(手塚治虫)など、再び実際の職業を掘り下げる作品が目立ち始める。
主人公は一部の限られた人しかなれない憧れの職業というパターンが主流だったが、80年代にランキング2位の「島耕作」が始まった。読者にも身近な「サラリーマン」が主人公として登場し、より現実に近い姿を描く作品が増えてきた。
今回専門家に推薦された約130の作品を職業別に分類すると、最も多いのは「飲食サービス」で、「医療、福祉」「出版、編集」などが続いた。また、ここ数年は働く女性が主人公の作品が勢いを増している。マンガは時代を映す鏡。マンガから社会を読み解く楽しみ方もありそうだ。
◇ ◇ ◇
調査の方法 仕事を題材とし、「働くことの意味を考えられる」「働くモチベーションを高める」要素がある漫画を専門家に原則10作品以上を順位付けして推薦してもらった。選者は以下の通り(敬称略、五十音順)
飯尾元・渡辺淳子(楽天ブックス書籍バイヤー)▽奥川由紀子(リブロウィング新橋店)▽小野耕世(評論家・日本マンガ学会会長)▽栗山典久(まんが王国・土佐推進協議会事務局長)▽関口靖彦(本の情報誌「ダ・ヴィンチ」編集長)▽薗部真一(宝島社「このマンガがすごい!」担当編集)▽竹内一郎(劇作家・宝塚大学東京メディアコンテンツ学部長)▽竹内オサム(同志社大学社会学部メディア学科教授)▽田中誠一(文星芸術大学マンガ専攻准教授)▽田中時彦(北九州市漫画ミュージアム館長)▽橋本博(熊本マンガミュージアムプロジェクト代表)▽福士真人(立川まんがぱーく館長)▽山内康裕(マンガナイト代表)▽吉村和真(京都精華大学マンガ学部長)▽渡辺博久(紀伊国屋書店新宿本店)
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