成功が客を呼ぶ カスタマーサクセス

「カスタマーサクセス」の重要性が高まっている。顧客の成功が未来の売り上げをつくる、サブスク時代の新たなマーケティング概念だ。丸井グループやタニタなど、大手企業も相次いで専門部署を設置し、強化を急ぐ。継続率95%を誇るブランドバッグのサブスクリプションサービス「ラクサス」の事業成功の秘訣もカスタマーサクセスにある。

(写真/shutterstock)
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 「丸井はLTV(顧客生涯価値)経営の企業へと生まれ変わろうとしている。それにはカスタマーサクセスという考え方を全社的に導入していく必要があると考えた」

 丸井グループの相田昭一カスタマーサクセス部長は専門部署設置の理由をこう語る。丸井グループは2018年10月にカスタマーサクセス部を新設。経営企画部長の相田氏が兼務する形で、同組織を統括する立場に就いた。これまでの売り切り型のモデルではなく、小売り、金融などさまざまなサービスを組み合わせながら、顧客にとっての“成功体験”をつくる。それが、長期的な関係の構築には欠かせないと判断して設立した(同社の具体的な取り組みは特集の3回目で紹介する)。

 少子高齢化に向かい、多くの業態で市場が縮小傾向にある日本において、既存顧客との関係を強固にし、収益基盤を安定させたいと考える企業は多いだろう。必要になるのがカスタマーサクセスだ。カスタマーサクセスという概念はBtoB(企業向け)の事業者から生まれた。それが、徐々にBtoC(消費者向け)事業者にも浸透しつつある。

 BtoB事業者、特にソフトウエア開発会社の間でカスタマーサクセスが重視され始めたのは、販売形態が従来の売り切り型から、月額で利用料を徴収するサブスクリプション型に変わったことがきっかけ。ソフトウエアをクラウド化し月額制にすることで、低コストでの導入を可能にしたSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)と呼ばれるモデルの登場だ。

 サブスク型は顧客から毎月収益を得られるため顧客数が増えるほど、収益基盤が安定する。ただし、導入が簡便になったということは、解約や他社のサービスへの乗り換えも容易になったと言える。解約防止策で継続率を高め、LTVを増加させなければサブスク事業は成長しにくい。その役割を担うのがカスタマーサクセスだ。

 多くの場合「失敗」と判断することが解約の引き金になる。サービスを導入したものの機能を使いこなせない、思ったような成果が出ない、もっと使いやすいサービスが見つかった、こうした場合に企業はサービス導入が失敗だと判断して解約する。逆に課題解決や売り上げ向上といった成果につながり、導入が「成功」と判断されれば解約されにくい。顧客の成功を手助けするという発想から、カスタマーサクセスという言葉は生まれている。

 カスタマーサクセスはよく、カスタマーサポートと比較される。最大の違いは能動的であること。カスタマーサポートは、基本的に顧客から問い合わせがきた場合に対応する待ちの姿勢だ。一方、カスタマーサクセスは顧客が成功できるように、データなどを基に能動的なコミュニケーションを図るのが一般的。KPI(重要業績評価指標)も異なる。カスタマーサポートは1日当たりの対応件数など、効率性を測ることが多い。カスタマーサクセスは先述した通り、解約防止と継続率の向上がKPIになる。継続率を高めることでLTVが増加し、会社の収益力の向上につながる。カスタマーサクセスは未来の売り上げを生み出す施策だ。

カスタマーサクセスとカスタマーサポート。似た言葉だが、最大の相違点は能動的か受動的という応対の方法にある
カスタマーサクセスとカスタマーサポート。似た言葉だが、最大の相違点は能動的か受動的という応対の方法にある

 カスタマーサクセスはBtoB企業を超え、BtoC企業にとっても欠かせない概念になっている。SaaSのモデルをBtoCに転用した次世代サブスクの登場がそれを後押しした。サービス契約後に失敗と判断されれば即解約につながるのは、BtoC向けも同じ。継続率を高めるにはカスタマーサクセスは必須だ。

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