ひらめきブックレビュー

100年続くブランド服を 不器用デザイナーのこだわり 『生きる はたらく つくる』

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ファッション業界というと、流行の最先端を走っているイメージがある。トレンドはどんどん移り変わり、そうした変化にスピーディーに対応するのがアパレルブランド――そんな風に思っている方も多いのではないだろうか。

だが、そんなイメージが当てはまらないアパレルブランドが「ミナ ペルホネン」(創業当時の名前は「ミナ」)だ。デザイナーの皆川明氏が立ち上げたブランドで、1995年の創業以来一貫して、「長く着続けられる服」をつくり続けている。ミナはフィンランド語で「私」、ペルホネンは「蝶(ちょう)」という意味だ。

本書『生きる はたらく つくる』は、創業から25年を迎えるミナ ペルホネンというブランドの特徴や歩み、ものづくりにかける思いを、皆川氏みずから明らかにしたもの。子ども時代の思い出やファッションの世界に足を踏み入れるきっかけ、6畳のアトリエからブランドを育てていった曲折などをくわしく語っている。

■いつまでも変わらぬ関係性

ミナ ペルホネンの世界観がよくわかる言葉が「せめて百年つづくように」だろう。これはブランドをスタートさせるときに、皆川氏がA4の紙に書いた言葉だという。じっくりと、長い時間をかけることに重きを置いているブランドだということだ。

ミナの服は国内の工場で、何度も打ち合わせを経てつくられる。トレンドを追わないため、シーズンごとにセールもしない。ボタンが取れたりほつれたりしたら修繕をする。皆川氏は、シーズンごとに終わるのではなく、いつまでも変わらない親密な関係を顧客と築きたいのだと語る。そんな世界観に引かれるファンは多く、老若男女を問わず静かに支持を集めている。

皆川氏のものづくりへの原点には、子ども時代の経験があるそうだ。幼い頃、祖父母が経営する輸入家具の店で皆川氏は、よく品物を触らせてもらっていた。その時、「これはバッファローの革だよ」「漆は何百年も、もつのよ」などと、おだやかに祖母に語りかけられたことを、いまだに覚えているという。世代を超え、長きにわたり使われ続けるものの価値を、幼い頃から感じとっていたのだろう。

意外にも皆川氏は不器用で、縫製などは人よりも時間がかかったそうだ。だからこそ手抜きはせず、いっそう丁寧に仕事をした。また独立したての頃はデザインだけでは生活できず、魚市場でマグロをさばくアルバイトをしていたこともあった。そのときに、親方から素材を生かす大切さやコミュニケーションの方法を学んだという。生きるうえの経験を自分のものづくりと切り離さず、積み重ねていったことが、本書では語られている。

100年という時間を見据えてものづくりの理想を追求する皆川氏から、仕事に向き合う姿勢についてヒントが得られるかもしれない。

今回の評者 = 梅澤奈央
情報工場エディター。ウェブ制作会社にて、企業・行政・教育機関の広告を手がける。東京都出身。大阪大学卒。

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