魔法のリング、未来の扉開け 指の動きで機器操作
開発のログバー・吉田卓郎社長
「優勝は『リング』!」。12日、都内で開かれた米系ネットメディア「テッククランチ」のベンチャー企業プレゼン大会。10社での決勝戦を制した吉田社長は「よし!」と拳を握った。その人さし指に光る肉厚な銀色の指輪。まだ模型だが、これが2014年発売を目指す「リング」だ。
例えば朝起きて空中に認証サインを描き、手を動かすと触れずにカーテンが開く。「TV」と文字を書き、指を跳ね上げるとテレビが起動する。果ては飲食店で「$」マークと数字を書いて代金を決済する。
「『グーグル・グラス』のような眼鏡型は着けっぱなしにしづらい。腕時計型は腕にスマホを着けたようなものです。自然に身に着ける物でコミュニケーションを変えたい。ネックレス、ピアス……。行き着いたのが指輪です。人によってサイズが違うという生産上の欠点はありますが(笑)」
「米マイクロソフトの『キネクト』のように、手ぶりで画面を操作するものはあります。ただ、動作を認識するセンサーの前でしか機能しない。リングは指輪そのものに加速度系などのセンサーを内蔵します」
夢物語のような操作性は実現するのか。テッククランチの大会でデモに使ったのは、配線付きの大ぶりな試作機。司会者の最後の言葉は「本当に2014年中にできるんですか」だった。
「壁は小型化です。2年前だったら無理でしょうが、今なら我々ベンチャーでもメーカーの技術協力を得れば可能です。ジェスチャーする時だけデータを送信する仕組みなら、電池も一度の充電で1週間は持ちます」
対応機器やアプリがなければただの指輪。どれだけの企業を巻き込めるかも成否を左右する。
「家電、決済、ゲーム……。18社と対応サービス開発で交渉を進めています。家電にはブルートゥース(近距離無線通信規格)で接続します。触れずに動くカーテンのレールなどはリング専用のものが必要です。開発してもらった機器やアプリは専用サイト『リングストア』で販売します」
「決済はセキュリティーや誤入力防止が課題ですね。ただ、スマホを介し店頭で顔認証で支払うペイパルのような事例も現れています」
普及のカギとみるのが「交流」だ。
「家電操作は便利ですが、それだけでは使われない。キラーコンテンツはコミュニケーションです。独自アプリやツイッターなどとの連動で、暇なときに1日1000回でも簡単なメッセージや絵文字を送ってもらう」
「位置情報や、テレビでどんなチャンネルをつけたといった生活のログ(記録)も採れます。画面がないので受信確認はできませんが、そこはスマホや腕時計型など他のウエアラブル端末と一緒に使えばいい」
「リングを着けた人同士が握手すると、名刺のように個人情報を交換する。『ニンテンドーDS』のすれ違い通信のように、街中でいつの間にかユーザー同士がつながるのもいいですね」
メンバーは吉田社長を含め5人。ロボットや時計の開発に携わった人材もいる。グーグル・グラスなどの発売が見込まれる来年へ開発を急ぐ。
「資金調達や部品の選定など量産へのスケジュールは見えてきました。各社が製品を発売する2014年はウエアラブルの年になる。この熱は逃しません」
来年の発売めざし開発
リング 指輪型のウエアラブル端末。各種センサーやバッテリーを内蔵し、近距離無線通信規格「ブルートゥース」に対応する。画面やボタンはなく、空中に文字を書く、指を一方向に振るといった動作で、家電を操作したり簡単なメッセージを送信したりする。2014年に日米での発売を計画。価格は1万~2万円の見込み。
(聞き手は石森ゆう太)
[日経MJ2013年11月27日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。