ひらめきブックレビュー

10分でアイデアを生み出す技 広告コピーの達人が指南 『10分あったら、どう考える?』

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不思議な本である。サブタイトルには「究極のアイデア法」とあるが、読み進めると、頭がさえわたるというより、ゆるゆるとストレッチしているような心地よさを感じる。

博報堂のコピーライターである著者の野澤幸司氏は、喫茶店のテーブルでさびついたネジを見つけたら、こう想像を膨らますという。「アンデス山脈のふもとに住む貧しい少年が、油まみれになって削り出したネジかもしれない」。これは「周囲の部品に思いを巡らせる」という発想法で、身近なものからイマジネーションを広げるレッスンだそうだ。

本書『10分あったら、どう考える?』は、このように、10分間で新しい発想を生み出すコツを、レッスンと称してまとめたものだ。著者は、ふと力が緩んだ「スキマ時間」にこそ面白いアイデアに出会えるものだとし、10分という単位に注目したらしい。そのちょっとした時間のなかで、見方を変え、自分の頭に刺激を与える発想法の数々を披露している。

■「想像旅行」で見方が変わる

旅先で思いもよらぬ情報に触れ、驚いた経験は誰しもあるだろう。こうした、知らない情報に触れる体験を、10分間で味わえる方法が「一GO一会」だ。これはつまり、地図アプリを使った想像旅行である。例えば著者は、アフリカのへき地や北極圏を地図アプリで調べ、街を俯瞰(ふかん)したり、街の中を(アプリの中で)歩いたりしているのだという。未知の場所の情報をインプットすることが、新しいアイデアの元になると著者は説いている。

アイデアを作るときだけでなく、それを伝えるスキルとして活用できそうなのが「政治と不倫とドーナツの関係を想像する」というもの。これは、無関係なニュースをひとつのストーリーにするというレッスンである。つまり、芸能人の不倫、政治家の汚職、海外から来たドーナツ店と自動運転の試験導入、といったジャンルの異なる事象の間に、何らかの関係性や共通する「時代の気分」を発見して、そのつながりを語っていくというものだ。新製品や新サービスの開発にしても、その製品がどんな価値を作り、人々の生活を変えるのか、ストーリーを語ることが求められる時代だ。このレッスンは発想の柔軟性とともに、「物語力」も高めてくれそうだ。

会合や出張、旅行も思うに任せない世の中で、新しい情報やインスピレーションを得ることが難しくなってきた。短時間で頭を柔らかくし、見方を切り替えるスキルは、ビジネスパーソン一人一人に大切なものだと言えるだろう。昨今の閉塞感を打ち破る頭のストレッチ法として、ぜひ本書を役立ててほしい。

今回の評者 = 高野裕一
情報工場エディター。医療機器メーカーで長期戦略立案に携わる傍ら、8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」のエディターとしても活動。長野県出身。信州大学卒。

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