2020年6月にダイハツ工業が発売した都市型多目的スポーツ車(SUV)の「タフト」が、1カ月で月販目標の4.5倍を受注する好スタートを切った。軽自動車市場は飽和状態にあり、SUVはスズキ「ハスラー」など既にヒット車種が多い激戦区。ダイハツは、その中に残されていたある“空白地帯”をうまく見つけ出した。

ダイハツ「タフト」は、2020年6月発売の都市型多目的スポーツ車(SUV)。X(税込み135万3000円~)、G(税込み148万5000円~)、Gターボ(税込み160万6000円~)の3グレードがある(画像提供/ダイハツ工業)
ダイハツ「タフト」は、2020年6月発売の都市型多目的スポーツ車(SUV)。X(税込み135万3000円~)、G(税込み148万5000円~)、Gターボ(税込み160万6000円~)の3グレードがある(画像提供/ダイハツ工業)

 月販目標台数4000台だったタフトが、発売1カ月で4.5倍の約1万8000台を受注して話題を呼んでいる。「月販目標に対する比率で見れば、この2~3年の軽自動車の新型車では最も良い」(ダイハツ工業 広報・渉外室)。新型コロナウイルスの影響で多くの自動車メーカーが苦戦する中で大善戦したといえる。

 ダイハツは19年より、新たなクルマづくりの設計思想「DNGA」(Daihatsu New Global Architecture)に基づいた新型車を投入している。今後10年間の自動車に必要な機能を想定して、車台(シャシー)などのプラットホームの開発を一括して進めるもので、高コストパフォーマンスな自動車を生産する鍵を握る取り組みだ。タフトは、軽スーパーハイトワゴン「タント」、小型SUV「ロッキー」に続く、第3弾のDNGA採用モデルとなる。

 タフトが注目される背景には、ここ数年のSUV人気がある。幅広い世代で余暇をアクティブに楽しむ人々が増えたことで多目的に使えるクルマに注目が集まっている。市場の熱気を受けて、多くのメーカーが続々と新型SUVを投入。スポーティーで若々しいスタイルに加え、セダンなどに比べると最低地上高や着座位置が高めで乗り降りしやすいという実用性も受けている。またSUVの持つ「頼りがい」「本物感」といったイメージも、モノ選びにこだわる現代人に刺さっているようだ。

 ただ軽自動車に目を向けると、実はSUV系は極端に少なかったのが実情。本格4WD車の「スズキ・ジムニー」とクロスオーバーワゴンの「スズキ・ハスラー」が代表格で、その他は外観をSUV風にアレンジしたワゴンの「三菱ekクロス」や「スズキ・スペーシアギア」くらいしかなかった。軽自動車に限ればSUVは未開拓なジャンルであり、スズキ一強といってよい領域だったのだ。軽自動車でライバルのダイハツは、そこに勝負できる空白地帯があると踏んだ。

ライバルのスズキのジムニー(左)とハスラー(右)
ライバルのスズキのジムニー(左)とハスラー(右)

 とはいえ、ハスラーの二番煎じでは勝ち目はない。そこでダイハツは、悪路も走れる完全アウトドア仕様のジムニーと、街乗り中心のクロスオーバーワゴンであるハスラーの中間ともいえる「SUV風味を強めた軽クロスオーバー車」を目指すことにした。言い換えれば「アクティブな軽ライトSUV」であり、こうして生まれたのがタフトというわけだ。

ハスラーよりも天井や窓などのデザインが直線的でアクティブな印象のタフト。写真のテールライトの間を装飾するディーラーオプション「メッキパック」は装着率50%と人気
ハスラーよりも天井や窓などのデザインが直線的でアクティブな印象のタフト。写真のテールライトの間を装飾するディーラーオプション「メッキパック」は装着率50%と人気
タフト Gグレードのパネル。オレンジ色のパーツがアクセントになっている
タフト Gグレードのパネル。オレンジ色のパーツがアクセントになっている

2人乗りに向け、ガラスルーフなどでワクワク感を演出

 タフトが成功した最大の理由は、アクティブな軽ライトSUVを機能やデザインに丁寧に落とし込み、消費者にとって分かりやすく仕上げたことにある。きっかけとなったのが、開発前の事前調査だ。アウトドアなどを楽しむアクティブな層は「2人で出掛けることが多い」ことが判明。これを受けて、4人乗り仕様ながら、2人乗りで楽しく遊べることを優先して開発を進めた。

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