中国家電大手の海信集団(ハイセンス)が、日本国内テレビ市場で2020年5月に初めてシェアでパナソニックを抜いた。シャープ、ソニー、東芝に次ぐシェア4位の座を2カ月連続で確保するなど、着実に日本人消費者に受け入れられつつあるようだ。「海外ブランドは売れない」というテレビ市場のジンクスを破った同ブランドがなぜ人気なのか、その理由を追った。

ビックカメラ有楽町店のテレビ売り場にはハイセンス製品のコーナーが設けられている。アンバサダーである俳優綾野剛さんの等身大ポップで来店客にアピールしている
ビックカメラ有楽町店のテレビ売り場にはハイセンス製品のコーナーが設けられている。アンバサダーである俳優綾野剛さんの等身大ポップで来店客にアピールしている

 「『“綾野剛さんのテレビ”が欲しいんですけど』と、ハイセンス製テレビについて質問を受けることがここ数カ月増えた」。ビックカメラ有楽町店でビジュアルコーナーを担当する鈴木将氏は、テレビ売り場を訪れる来店客の意識が変わりつつあることを肌で感じている。

 ハイセンスは2020年4月、今クールのドラマ「MIU404」(TBS系列で放映)などで活躍する人気俳優の綾野剛さんをブランドアンバサダーに起用。「テレビは国産しか考えられなかった」といったメッセージが映る旧式テレビが散らばった森に綾野さんが立ち、指を鳴らした瞬間に「この大画面がグローバル時代の新基準」と表示された同社製の大型テレビが現れる――。そんなテレビCMを見た来店客にとって、国内テレビブランドとハイセンスの間に境界線はなく、プロモーション戦略が奏功した格好だ。

 1969年設立のハイセンスは、中国市場では16年連続でシェアトップを走り、現在は世界160カ国・地域で展開している。日本に参入したのは11年で、しばらく国内メーカーの背中を追いかける日々が続いた。18年2月に単月ながら東芝を抜き、19年4月には初めてシェアでソニーと肩を並べ、20年5月にはついにパナソニックを抜いた(調査会社BCNの調査による)。9年がかりで国内シェア3位も狙えるところまで来た今が好機と見て、国内マーケティング予算を前年度比で3倍と大幅に積み増すなど大勝負に出ている。

家電量販店の実売データを集計する「BCNランキング」における薄型テレビ(液晶テレビ+有機ELテレビ)のメーカー別販売台数シェアの推移(上位5メーカー、2011年3月~20年6月の月次統計)。紫色の線がハイセンス
家電量販店の実売データを集計する「BCNランキング」における薄型テレビ(液晶テレビ+有機ELテレビ)のメーカー別販売台数シェアの推移(上位5メーカー、2011年3月~20年6月の月次統計)。紫色の線がハイセンス

 認知度向上によって国内メーカーと同じように来店客に売り込みやすくなったことから、取扱店舗も徐々に増えつつある。例えばビックカメラ有楽町店は20年1月にハイセンス製テレビの常設コーナーを用意。6月下旬には面積を拡大し、最近はビックカメラ限定色のモデルを用意するなど販売に力を注ぐ。

東芝の映像部門買収で手に入れた「高画質エンジン」

 同社にとってターニングポイントになった製品が、19年5月発売した格安4Kテレビ「E6800シリーズ」だ。50型ながら実勢価格6万円台を実現した。

 ポイントは、日本人が中国製品に抱きがちな「安かろう、悪かろう」というイメージを払拭した点にある。前出のビックカメラ鈴木氏も、「(この製品は)映像に詳しくなくても、誰でも一目映像を見れば国内メーカーのテレビと遜色ないレベルだと分かる」と評する。

 本製品は、従来製品と何が違ったのか。実は同社は18年2月に東芝の映像部門である「東芝映像ソリューション」を買収した。東芝に在籍していたテレビ技術者の力を借りて、日本好みの高画質を実現。肌の質感をよりリアルに表現する「美肌リアライザー」と言った機能は搭載しないものの、レグザに近い基本性能を備えた画像処理回路「レグザエンジンNEO」の共同開発に成功したのだ。

 電子番組表などのUI(ユーザーインターフェース)もレグザに近づけるなど、東芝製テレビを使ったことがある人なら違和感なく移行できる工夫を凝らした。レグザエンジンNEOを初搭載した「A6800」シリーズを18年12月に発売すると、レグザ並みの性能や機能を持ちつつ安くて買いやすいとの評判が口コミで広がった。そして後継機のE6800で、その人気に一気に火が付いた格好だ。

 現行機種である20年5月発売の「U7Fシリーズ」と「U8Fシリーズ」では、NEOエンジンをさらに進化させた「NEOエンジン 2020」(U7F)や「NEOエンジン plus 2020」(U8F)を搭載している。50型で同等レベルの画像処理回路を搭載する国内メーカー製テレビは12万~13万円するが、U7Fシリーズなら8万7780円(実勢価格、税込み)。3割近く安い価格で手に入るわけで、手を伸ばす消費者が多いのもうなずける。

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