2019年12月にZOZOを退社した田端信太郎氏が20年8月3日、キャンピングカーのシェアリングサービスを展開するCarstay(東京・新宿)のCMO(最高マーケティング責任者)に就任した。ZOZO退社後はオンラインサロンやYouTubeへの動画投稿など、個人活動を中心としてきた田端氏。身をもって体感したYouTubeの競争環境の厳しさやCMO就任の理由を語った。

田端 信太郎氏
Carstay CMO(最高マーケティング責任者)
1975年10月生まれ。新卒で入社したNTTデータを経て、リクルートでフリーマガジン「R25」の立ち上げや広告営業の責任者を務める。2005年ライブドア入社12年、NHN Japan(現LINE)執行役員に就任し、広告事業部門を統括。14年、上級執行役員法人ビジネス担当に就任。18年3月からスタートトゥデイ(現ZOZO)コミュニケーションデザイン室の室長に就任し、19年12月に退職。20年8月より現職

田端さんは200人超が参加するオンラインサロンなど収入基盤ができていますよね。現場仕事からは身を引くものだと思っていました。

正直、収入はあります。ZOZOを辞めた当初は正直に言うと、空いた時間でYouTuberみたいなことをやりたかったし、それを今でもやりたい気持ちがあります。新型コロナウイルス感染拡大以降はさらに時間に余裕ができたのでYouTubeのチャンネルを開設し、自分で動画を編集して投稿しています。ですが、なかなか競争が厳しい。時間をかけて編集すると、視聴数は伸びる。それはいい経験ですが、それを毎日やりたいかというと、そうではないと20年5月ごろは悩んでいました。

田端さんでもYouTuberへの道は難しいんですね。

僕は普段から「マーケターを自称するなら、5000~1万人ぐらいのTwitterのフォロワーがいるべきだ」と言っています。インフルエンサーの端くれといわれる僕としては、YouTubeのチャンネル登録者数は10万人ぐらいはいないと恥ずかしい。ですが、現在の登録者数は3万人超にとどまっています。

 コンテンツやメディアに関わる立場として、最も競争環境が厳しいところで挑戦したいと思って始めました。ですが、かつて憧れていた業界の先輩ですら登録者数が数千人程度にとどまっていて、芸能人でも私より少ない人がいる。まるでグーグルをもうけさせるためのラットレースをしているような感覚に陥ります。本当にテレビのような競争率になってしまった。どこか自分がやるのは違うと思い始めました。

コンテンツ不足に陥ってしまった

なぜ、「違う」と思ったのでしょうか。

僕自身がああいう場に出ていったときには、実際のビジネスの現場で起こっている面白いことを最前線で体感しつつ、本質を分かりやすく要約してコンシューマーに届けないと受けないかもしれないと思い始めました。例えば、LINEとZホールディングスの合併に関する動画は、かつてLINEに所属していた当事者性があるため視聴者に受けました。ですが、テスラの時価総額がトヨタ自動車を抜いたことを第三者的に解説しても、私が語る意味は少ない。評論家的な立ち位置は求められていません。

 YouTuberになって日常的に動画を上げようとすると、どうしても今日のニュース解説のようにならざるを得ません。果たして、それは僕がやるべきなのかと自問自答した結果、今は自分が語りたい、語るべき内容の動画だけを上げるようにしました。すると月に投稿できるのはせいぜい1、2本です。これではコンテンツが圧倒的に足りません。

YouTuberが肌に合わないと感じ始めたなかで、なぜ現場に復帰しようと考えたのでしょうか。

現場に戻りたいという意欲が高まりました。僕のロールモデルはずっとドワンゴ社長の夏野(剛)さんです。夏野さんといえば、携帯電話向けインターネットサービス「iモード」で一時代を築いたレジェンド。ですが、その立場でとどまることへの危機感からドワンゴに入社し、現場に復帰したのではないかと思います。それを自分もなぞっています。

 LINEに所属していた最後の2年間は、300人の部下から上がってくるリポートを読むなど、間接的に現場に携わる立場でした。大きい組織をマネジメントする経験をさせていただいたのはありがたいことですが、責任が広範囲に及ぶ割には手応えを感じられませんでした。ZOZOのときは社長の参謀というかアドバイザーみたいな立場でした。あれは違う意味で最前線感はありましたが、事業への関わりでは若干異なります。

 もっと手触り感がほしいと思っていました。今年で45歳になりますが、「Stay hungry, stay foolish(ハングリーであれ。愚か者であれ)」でいたい気持ちがあり、現場への復帰を決めました。

NIKKEI STYLE

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